第二十二章 霊媒師 岡村英海

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「大福!!」 声が震える、 手足も震える、 汗がボタボタ床に落ち、 視界が歪んで胃液が上がる、 起きた事に頭の理解が追いつかない、 今……何があった? 「……大福……大福……どこに行ったの……?」 返事がない、 可愛い声が聞こえてこない、 「……ねぇ、大福……ダメだよ、隠れてないで……出ておいで、」 何度呼んでも返事が無くて、 心臓が2倍の速さでバクバクいってる、 ついでに言えばパニクってるし、 そのせいなのか考えがまとまらない、 何が起きた……? さっき……斑模様が飛び込んできて、 それで……それで……そうだ、 僕の横を通り過ぎ、 そのまま壁に突進してさ、 大福ごと壁の中に消えたんだ、 ____だ、大福さん? ……なにしてるの? 僕がそう聞いた時、大福は何も答えず壁から出ようとしなかった。 あんな大福を視た事がない。 あの子は三尾の猫又で、(おさ)にだって牙を剥く。 炎の中に飛び込んで僕を助けに来てくれた。 あんなに強い子はいない、あんなに勇敢な子はいない。 その大福が、壁に潜んで斑の事を気にしてたんだ。 僕は……僕は大馬鹿だ。 それに気付いていたのに、変だなって思ったのに、その理由を、ちゃんと考えようとしなかった。 心のどこかで大福なら大丈夫、大した事はないだろうと、高を括っていたんだよ。 「大福……ごめん、……僕……大福……ごめん、ごめんね、大福……どこ? どこにいる……? 無事なの……? 大福……ああ……お願い……お願いだから返事して!!」 泣いたって仕方がない、怒鳴ったって意味がない、そんなのぜんぶ分かってる、ぜんぶ僕が悪いんだ、大福に何かあったら僕は____ ____不安が恐怖にシフトした。 そうなったらもう、居ても立っても居られない。 僕は床に這いつくばって、大福を最後に視た壁の下部を舐めるように凝視した。 なんでもいい、どんな些細な事でもいいから、あの仔の行方のヒントがほしい。 …… ………… 必死で探していた。 僕は夢中になりすぎて、リビングとの間仕切りドアが開いた事にまったく気付いていなかったんだ。 それは不意に降ってきた。 頭の上から、戸惑うような優しい声。 幼い頃から聞き慣れた低い声だ。 「……英海(ひで)……大丈夫かい? おまえの怒鳴り声がリビング(なか)まで聞こえて……滅多に怒鳴る子じゃないから心配になったんだ。なにがあったの?」 見上げれば、そこには心配そうな顔をした……父さんが立っていた。
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