第二十二章 霊媒師 岡村英海

32/159
前へ
/2550ページ
次へ
◆ 「英海(ひで)の猫がいなくなってしまったのか」 父さんはそう言うとしゃがみこみ、ためらう事なく見えない猫を探し始めた。 「……信じてくれるの? 三尾の猫又なんて、何言ってるんだって思わないの?」 僕も当然床に這い、手掛かりを探しながら聞いたんだ。 すると父さんは、 「思わないよ。それどころか朗報だ。猫が死んで幽霊になるんなら、今まで飼ってた猫達にも、いつか会えるって事だろう?」 心なしか弾んだ声で、こう答えてくれたんだ。 意外だな……霊感のレの字もなくて、優しいけれど保守的な父さんが、すんなり信じてくれるだなんて。 そんな事を思っていると、僕の気持ちを読んだのか、続けて静かにこう言った。 「正直に言えば、幽霊とか霊媒師とか、そういうの父さんにはよく分からないんだ。でも……そうは言っても家の中で音が聞こえる、誰もいないはずなのに説明のつかない音がする。これがなければ ”猫又” と言われてもピンとこなかったかもしれない。ははは……本当に参ったよ。母さんもきなこも怯えてしまうし、自分達ではどうにも出来なくて、だから今回、藁にも縋る思いで霊媒師さんを呼んだんだ。まさか英海(ひで)が来るとは思わなかったけど」 「ごめん……」 「あやまらなくていい。父さん達、今まで色々英海(ひで)にウルサク言ったけど、もうおまえも30だもんな。英海(ひで)が決めた事なら応援したいと思ってる。あとでもっと仕事の話を聞かせてくれ。 それより今は猫の捜索が最優先だ。変な(やつ)英海(ひで)の猫をさらったんだろう? 何かあったら大変だ、一刻も早く見つけないと」 父さんは力強く言いながら、視えないのに、それでも懸命に探してくれた。 その様子にありがたさが込み上げて、同時、子供の頃を思い出す。 ____父さん! きなこがどこにもいない! どうしよう! ____なにぃ!! きなこー! うっ……いや、まず落ち着こう。慌てたら見つかるものも見つからない。母さん、今すぐ家中の窓を見てきて! どこか空いてる所があればそこから半径100メートルの屋外にいる可能性がある! 空いてなければ家の中だ! 一部屋一部屋隈なく探すんだ! それから英海(ひで)はお風呂のお湯をすぐに抜いてきて! 万が一落ちたら命が危ない! 姿が見えなくなってから何分経過した? 時間が経つほど事故率が上がる! 早急に見つけ出すぞ! 岡村家の猫スキル、今こそ解放せよ!! そうだ……そうだよ、慌てたら視つかるものも視つからない。 ましてや、 大福の姿が視えるのは僕だけなんだ。 僕しかいない、僕が必ず視つけだす……! 「父さんありがとう! 僕がしっかりしなくちゃね! まずは家の中を視てくるから父さんはリビングで待ってて、視つけたら紹介するから、僕の大事な三尾の猫又、大福を!」
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加