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◆
「英海の猫がいなくなってしまったのか」
父さんはそう言うとしゃがみこみ、ためらう事なく見えない猫を探し始めた。
「……信じてくれるの? 三尾の猫又なんて、何言ってるんだって思わないの?」
僕も当然床に這い、手掛かりを探しながら聞いたんだ。
すると父さんは、
「思わないよ。それどころか朗報だ。猫が死んで幽霊になるんなら、今まで飼ってた猫達にも、いつか会えるって事だろう?」
心なしか弾んだ声で、こう答えてくれたんだ。
意外だな……霊感のレの字もなくて、優しいけれど保守的な父さんが、すんなり信じてくれるだなんて。
そんな事を思っていると、僕の気持ちを読んだのか、続けて静かにこう言った。
「正直に言えば、幽霊とか霊媒師とか、そういうの父さんにはよく分からないんだ。でも……そうは言っても家の中で音が聞こえる、誰もいないはずなのに説明のつかない音がする。これがなければ ”猫又” と言われてもピンとこなかったかもしれない。ははは……本当に参ったよ。母さんもきなこも怯えてしまうし、自分達ではどうにも出来なくて、だから今回、藁にも縋る思いで霊媒師さんを呼んだんだ。まさか英海が来るとは思わなかったけど」
「ごめん……」
「あやまらなくていい。父さん達、今まで色々英海にウルサク言ったけど、もうおまえも30だもんな。英海が決めた事なら応援したいと思ってる。あとでもっと仕事の話を聞かせてくれ。
それより今は猫の捜索が最優先だ。変な霊が英海の猫をさらったんだろう? 何かあったら大変だ、一刻も早く見つけないと」
父さんは力強く言いながら、視えないのに、それでも懸命に探してくれた。
その様子にありがたさが込み上げて、同時、子供の頃を思い出す。
____父さん! きなこがどこにもいない! どうしよう!
____なにぃ!! きなこー! うっ……いや、まず落ち着こう。慌てたら見つかるものも見つからない。母さん、今すぐ家中の窓を見てきて! どこか空いてる所があればそこから半径100メートルの屋外にいる可能性がある! 空いてなければ家の中だ! 一部屋一部屋隈なく探すんだ! それから英海はお風呂のお湯をすぐに抜いてきて! 万が一落ちたら命が危ない! 姿が見えなくなってから何分経過した? 時間が経つほど事故率が上がる! 早急に見つけ出すぞ! 岡村家の猫スキル、今こそ解放せよ!!
そうだ……そうだよ、慌てたら視つかるものも視つからない。
ましてや、 大福の姿が視えるのは僕だけなんだ。
僕しかいない、僕が必ず視つけだす……!
「父さんありがとう! 僕がしっかりしなくちゃね! まずは家の中を視てくるから父さんはリビングで待ってて、視つけたら紹介するから、僕の大事な三尾の猫又、大福を!」
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