第二十二章 霊媒師 岡村英海

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____慌てたら視つかるものも視つからない、 そうだ落ち着け。 慌てたって良い事なんか何もない。 大福を視付けたいなら心を鎮めて冷静になるんだ。 「よし、2階から探すか」 小さな声で独り言ち、僕はあえて、ゆっくりと階段を上る。 それは一段一段、上りながら左右の壁と天井と、そこに大福の姿がないか確かめる為だった。 もしかしたらさっきみたいに、霊体(からだ)の一部が壁から出ているかもしれないだろう?  と、淡くも胸に期待を抱いたが、残念ながらそれらしきは視当たらなかった……が、大丈夫、まだ序の口。 次は順に、部屋の中を視て回ろうと思う。 ウチは典型的な建売住宅。 2階にはぜんぶで3部屋、父さん達の寝室と僕の部屋、あとは生活するには狭いけど納戸にするなら広く使える空き部屋だ。 ガチャリ、 ドアを開け、最初に入ったのは正月以来の僕の部屋だ。 6畳ほどの南向き。 窓際にはシングルベッドが置いてあり、あとはタンスとローテーブル、細長い姿見に黒猫柄のカーテンがかけてある。 ザッと視た感じ………… …………猫の仔1匹いなそうだけど……こればかりは分からない。 大福は霊体だから、物質なんてすり抜け上等。 狭い場所や隙間はもちろん、壁や床の中側にいるかもしれない。 ゆえに、捜索範囲内は生きてる猫の比ではないのだ。 「大福、どこ? いたら返事して」 声をかけつつベッドの下やらタンスの中やら、あらゆるところを覗き込む……がいない、それどころか気配もない。 部屋中をひっくり返して隅から隅まで視たけれど、散らかるばかりで手掛かりすら掴めない。 「……この部屋じゃないのかな、」 焦る気持ちをなんとか抑え、ここでダメなら隣の部屋だと足を前に出しかけた……が、僕は躊躇した。 四方の壁のこちら側、部屋の中は隈なく探した、……けれど、壁の向こう側(・・・・)は隈なく探したとは言えない。 僕が視たのは壁の表面、はみでる霊体(からだ)があるかないか、それしか確認出来てない。 もし……壁の中でも、うんと奥の方にいたとしたら、悔しいけれど視つけられないのだ。 ああ……こういう時、自分のスキル不足を痛感するよ。 スキルがあれば、霊視が出来れば、壁の中など透かして視る事ができるのに。 そう……僕はいまだに霊視が出来ない。 W県の修行でも、対(おさ)戦が終わった後に散々訓練したんだよ。 手練れ2人の直々の教え、なのに駄目だった。 どうやっても視えてこない。 どうしてこんなに視えないのか……落ち込む僕に、瀬山さんは少し考えこう言ったんだ。 ____霊視はね、コツさえ掴めば難しい術じゃない、 ____ましてやキミは希少の子、強く望めば出来るはずなんだ、 ____それでも出来ないという事は……切羽詰まってないのかな? ____1人で現場に出るようになれば、 ____必要に迫られれば、 ____案外アッサリ出来ちゃうかもよ、 言われた時はそうかな、そうだといいな、そんな風に思ってた。 だけど……今って条件揃ってないか? ソロの現場……大福がいなくなり切羽詰まった現状……霊視の必要性…… …… ………… もしかして、今なら視えたりするのかな? 大福を視つけたい、願う気持ちはすこぶる強くて、霊視が出来たら探せる範囲が一気に広がる。 やってみようかな……霊視の印は頭の中に完璧に入ってる。
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