第二十二章 霊媒師 岡村英海

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____最初はね、目を閉じてやってみるといいよ、 ____視覚から得る情報を遮断するんだ、 ____その方が集中できるから、 ____視たいモノが視えてくるから、 瀬山さんが教えてくれた、初心者向けの霊視のコツ。 僕はさっそく目を閉じて、大事な猫を視つける為に両の手指を絡めだす。 いいか……焦るなよ……大丈夫、何度も何度も練習したんだ。 工程は完璧なまでに覚えてる。 ただ心配なのは、霊視の印は霊矢のそれよりも長くて複雑。 うっかりでも間違えたら発動しない。 だから落ち着け、慌てないで丁寧に、やり直しにならないように。 自分自身に言い聞かせ、工程をひとつひとつ潰してく。 目を閉じて、視界を閉ざして気持ちを集中。 大福を視付けたい、大福を抱きしめたい、僕の大福、可愛い大福。 この時、僕の頭は大福でいっぱいだった。 初めて出逢ったF市の神社、あの日からあの仔と一緒に暮らしてる。 大福は丸めたアルミが大好きで、おやつは ”ちゅるー” が大好きで、茹でたささみも大好きで、出してあげれば『うにゃうにゃ』言って幸せそうにするんだよ。 可愛くて優しくて、白い毛皮がフカフカで、抱き着けばいつだって良い匂い。 僕の大事なお姫様、…………ああ、出逢ったあの日に誓ったのに。 これからずっと、お姫を大事にするからねって、そう誓ったのに。 それなのに目の前で、斑に姫をさらわれたんだ。
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