2366人が本棚に入れています
本棚に追加
ど、どういう事……?
この大福は僕の想像の賜物だ。
僕から逃げる脳内の大福を捕まえる事で、姫のリアルな居場所を掴みたい、そんなイメージを膨らませていたんだ。
僕の中では走る大福を追いかける、それしか想像していなかった。
なのに今、お姫は立ち止まってこちらを向いて、三尾をフリフリさせている。
あの顔……あの尻尾……あれは……あれは……誘う動きだ。
”コッチに来るにゃ!” と、僕をどこかに誘導したい時にする仕草だ。
なんで……?
僕の頭でこしらえた大福が、勝手に動き出している。
まるで意思を持ってるみたいに、好きなコトをし始めたんだ。
____うなぁん、 訳:コッチだにゃー、
宇宙の星の宝石箱で、もっと綺麗な大福が着いて来るよう言っている。
こんなの……さっきまでは無かったパターンだ、でも……可能性に縋りたい。
もしかしたら、もしかするかもしれないだろう?
「分かった、着いてくよ」
返事をしてから一歩二歩、僕が着いてくるのを確認した大福は、
____ななーーーーん! 訳:着いてくるにゃー!
後ろのアンヨをタシッと蹴って、弾丸よろしく駆け出した!
「えっ! 早っ! 待って!」
置いていかれてなるものかと、本気を出して姫の後ろを着いて行くけど、なんてったって追い付かない(猫は驚いた時など最高時速48キロで走る、そりゃ無理だ)。
うんと前を駆けるお姫は、時折止まって振り向いて、僕との距離を一定に保っていた。
それからしばらく。
星の畑の真ん中を走って走って、走り続けているうちに、地球の上空まで辿り着いた。
海の青さに雲の白さがまばらに重なり、キレイだなぁと横目で視ながら変わらず姫を追いかけてる……と、ここで状況に変化が起きた。
____うなーん!
声高らかにお姫が鳴いて、そのあと、流星みたいな速さでもって地上に向かって落ち消えたんだ。
僕は当然後ろを追った。
すでに姿は視えないけれど、
猫が落ちたその方向に、
地球に向かって、
地上に向かって、
思い切りダイブして、
雲のベールを何枚も何枚も潜り抜けて____
____ドンッ!!
ダイブはほんの数秒だった。
宇宙から地上に着いた僕は部屋の中にいた。
ありふれた建売住宅、そこそこ見慣れた2階の一室。
僕は……僕はさ、身体の震えが止まらなかった。
キョロキョロと部屋を視て、そこが確かに実家であると、僕の家だと認識した。
8畳の南向き。
焦げ茶の家具で統一された、可もなければ不可もない無難な部屋。
窓には茶トラが描かれたカーテンが、タンスの上には写真立てがズラリと並び、歴代のウチの猫達がおすましポーズで写ってる。
ココは…………父さんと母さんの寝室だ。
「マジか……」
テンションが上がる、どうしようもなく興奮する。
あの仔の気配をひたすら追って、宇宙からダイブして、気付けば両親の部屋に立っていて…………いや、違う。
実際にココにはいない、両親の部屋を霊視のスキルで視てるんだ。
だって、僕はまだ霊視の解除をしていない。
汗ばんだ手をシャツで拭う、そのついでに解除の言霊を口にする……と、ああ……さっきと同じだ、両親の部屋がフェードアウトで徐々に消え、代わり、フェードインで僕の部屋が現れた。
今視たものには、きっと意味があるはずだ。
それはたぶん姫の居場所に関するコト……こうしちゃいられない。
僕は転がるように部屋を出た。
廊下の数歩を小走りに、隣の隣、両親の部屋の茶色いドアを勢いよく開け放つ、………………いたっ!!
「大福うっ!!」
最初のコメントを投稿しよう!