第二十二章 霊媒師 岡村英海

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ど、どういう事……? この大福は僕の想像の賜物だ(・・・・・・・・)。 僕から逃げる脳内の大福を捕まえる事で、姫のリアルな居場所を掴みたい、そんなイメージを膨らませていたんだ。 僕の中では走る大福を追いかける、それしか想像していなかった。 なのに今、お姫は立ち止まってこちらを向いて、三尾をフリフリさせている。 あの顔……あの尻尾……あれは……あれは……誘う動きだ。 ”コッチに来るにゃ!” と、僕をどこかに誘導したい時にする仕草だ。 なんで……? 僕の頭でこしらえた大福が、勝手に動き出している。 まるで意思を持ってるみたいに、好きなコトをし始めたんだ。 ____うなぁん、 訳:コッチだにゃー、 宇宙の星の宝石箱で、もっと綺麗な大福が着いて来るよう言っている。 こんなの……さっきまでは無かったパターンだ、でも……可能性に縋りたい。 もしかしたら、もしかするかもしれないだろう? 「分かった、着いてくよ」 返事をしてから一歩二歩、僕が着いてくるのを確認した大福は、 ____ななーーーーん! 訳:着いてくるにゃー! 後ろのアンヨをタシッと蹴って、弾丸よろしく駆け出した! 「えっ! 早っ! 待って!」 置いていかれてなるものかと、本気を出して姫の後ろを着いて行くけど、なんてったって追い付かない(猫は驚いた時など最高時速48キロで走る、そりゃ無理だ)。 うんと前を駆けるお姫は、時折止まって振り向いて、僕との距離を一定に保っていた。 それからしばらく。 星の畑の真ん中を走って走って、走り続けているうちに、地球の上空まで辿り着いた。 海の青さに雲の白さがまばらに重なり、キレイだなぁと横目で視ながら変わらず姫を追いかけてる……と、ここで状況に変化が起きた。 ____うなーん! 声高らかにお姫が鳴いて、そのあと、流星みたいな速さでもって地上に向かって落ち消えたんだ。 僕は当然後ろを追った。 すでに姿は視えないけれど、 猫が落ちたその方向に、 地球に向かって、 地上に向かって、 思い切りダイブして、 雲のベールを何枚も何枚も潜り抜けて____ ____ドンッ!! ダイブはほんの数秒だった。 宇宙(そら)から地上に着いた僕は部屋の中にいた。 ありふれた建売住宅、そこそこ見慣れた2階の一室。 僕は……僕はさ、身体の震えが止まらなかった。 キョロキョロと部屋を視て、そこが確かに実家であると、僕の家だと認識した。 8畳の南向き。 焦げ茶の家具で統一された、可もなければ不可もない無難な部屋。 窓には茶トラが描かれたカーテンが、タンスの上には写真立てがズラリと並び、歴代のウチの()達がおすましポーズで写ってる。 ココは…………父さんと母さんの寝室だ。 「マジか……」 テンションが上がる、どうしようもなく興奮する。 あの仔の気配をひたすら追って、宇宙からダイブして、気付けば両親(ふたり)の部屋に立っていて…………いや、違う。 実際にココにはいない、両親(ふたり)の部屋を霊視のスキルで視てるんだ。 だって、僕はまだ霊視の解除をしていない。 汗ばんだ手をシャツで拭う、そのついでに解除の言霊を口にする……と、ああ……さっきと同じだ、両親(ふたり)の部屋がフェードアウトで徐々に消え、代わり、フェードインで僕の部屋が現れた。 今視たものには、きっと意味があるはずだ。 それはたぶん姫の居場所に関するコト……こうしちゃいられない。 僕は転がるように部屋を出た。 廊下の数歩を小走りに、隣の隣、両親(ふたり)の部屋の茶色いドアを勢いよく開け放つ、………………いたっ!! 「大福うっ!!」
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