第六章 霊媒師OJT-2

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俺のせいなんだ……! ちっぽけな意地張っちまったから……! なぜあの時、貴子の話をちゃんと聞かなかったんだろう? なぜあの時、貴子が嘘をつかなければならなかった理由を考えなかったんだろう? なぜあの時、母さんの話をきちんと聞かなかったんだろう? なぜあの時、出て行く貴子を追いかけなかったんだろう? なぜあの時、上京した貴子をすぐに訪ねていかなかったんだろう? なぜあの時、連絡の途絶えた貴子を探しに行かなかったんだろう? 貴子が苦しんでいた時に、 貴子が泣いていた時に、 貴子が辛かった時に、 俺はなにも出来なかったんだ、 あの男をこの手で八つ裂きにする事もできなかった、 貴子の仇を取ってやる事もできなかった……! ____藤田林業、 刺繍の背中が大きく揺れていた。 苦しそうな唸り声に嗚咽が混じり、何度も床に頭を打ち付けては変える事の出来ない過去を悔いている。 後悔してもしきれない悔しさと不甲斐なさ。 きっとこの11年、娘を助けられなかった自分を責めて責めて、それでも引き取ったユリちゃんには心配を掛けまいと、その辛さを奥底に閉じ込めて懸命に明るく振舞ってきたのだろう。 ここに来るまでのお父さんとユリちゃんのやり取りを見てきた僕は、今のお父さんとのギャップに胸が締め付けられる思いだった。 僕に子供はいないけど、大事な一人娘を手元に置いておきたいという父親の気持ちは容易に想像する事ができる。 田所さんが家を飛び出したあの夜だって、娘の話を聞かず頭ごなしに叱ってしまったお父さんだけを責める事が果たして正しいのか……娘への愛が深いがゆえのボタンの掛け違いだったのだと僕は思う。 ああ、だけどわかってる。 僕の考えはただのつまらない正論だ。 お父さんやお母さんからしたら、ほんの小さな掛け違いのせいで大事な娘が殺された事に違いはない。 正論なんかなんの意味もなさない。
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