第二十二章 霊媒師 岡村英海

43/159
前へ
/2550ページ
次へ
聞きたいコトと言いたいコトがたくさんある。 斑に突然さらわれて、怖い思いをしたであろう大福……本当にごめんね。 僕がもっとしっかりしてたら、こんな事にはならなかった。 今回ぜんぶ僕が悪いよ。 そもそも、なんでお姫はさらわれたんだろう?  あの時斑は、僕の横をすり抜けて迷わず姫に向かってた。 間違いない、あれは完全な大福狙いだ。 そうかと思うとさらった斑は今はいなくて、さらわれた大福も、怯えた様子を視せるコトなく、呑気にベッドで横になる。 ご無事でなにより、それは当然思ってる、……けど、だけどさ、それ差し引いても、分からないコトばっかりだ。 頭の中は疑問符の雨あられ、聞きたいコトは盛りだくさん。 なんだけど……それらの疑問を上回る、もっと大きな疑問があって、それは…… 「えっとー、大福さん。つかぬ事を聞くようだけど、そこの猫ちゃんは、どこの仔なの?」 直球で聞いてみた。 そりゃそうだ、気になるよ。 だってさ、実家の猫はきなこ1匹、それ以外にはいないはずだし、新しい()をお迎えしたなら、両親(ふたり)から百の単位で写真が来るに決まってる(でもなかった)。 僕の問いに大福は、『うな……うなぁ?』と曖昧だ。 答える気がないのだろうか? それとも、本当に知らない迷い猫なのだろうか? 2匹の猫はベッドの上でぴったりくっつきゴロンとなってる。 オトモダチは相も変わらず、毛並みを無視した毛繕いに熱心だ。 ぷっ、大福、エライコトになってるな。 全身の毛が逆立って、斬新すぎるスタイルだ。 …… ………… ………………この仔、 最初はさ、生きてる猫なのだろうと思った。 でも、違うかもしれない。 大福は三尾の猫又。 ゴージャスボディは霊体だけど、強い妖力(ちから)を発動させれば、生きた者に自分の姿を視せる事も、物理干渉も出来る。 相手が死者だろうが生者だろうが、ふれあう事が可能になるのだ。 ただ、大福はむやみやたらに妖力(ちから)を使う子じゃない。 下手に使って混乱を招いたら、僕が大変になると知っているからだ。 それなのに、このオトモダチは毛繕いをしているのだ。 嬉々として、楽しそうに嬉しそうに。 じゃあ、なんらかの理由で妖力(ちから)を発動したのかなって、僕はそう考えた。 でも、やっぱり違う。 だって、妖力(ちから)を使えばふれあう事は可能になるけど、霊体(からだ)の温度は変えられないの。 霊体は氷のように冷たくて、さわればびっくりしちゃうくらい。 この仔が生きた猫だとしたら、冷たいお姫にくっつくなんて出来ないよ。 猫、寒いのキライだし。 それが視てみろ、 ザリーンザリーン 間違いない、この仔は命のない猫だ。 そうだとすると、さらに気になる事がある。 うっとりと目をつむり、お姫の毛皮をしつこいくらいに繕う猫は、独特の毛色だった。 黒地の毛皮に柿に似ている橙色が霊体(からだ)全体飛び飛びに配置され、時々小さく白が混じる。 ランダムすぎるその柄は、迷彩服を思わせて同じ模様は2匹といない。 性格は温厚で、やんちゃで懐こく優しい子が多いと言われる……この仔はいわゆる ”サビ猫” だ。 ダークな暗色、黒に橙、そして少々白が混ざった、そう、斑模様の猫なのだ。 この柄、さっきの斑に似てないか? 否、似てるどころかそっくりだ。 a8b870e3-b338-4fbd-8f2b-8b6eca88f863
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加