2366人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あれ? 僕が抱っこしてたのは……サビ猫だったよねぇ、……えぇ?」
両手を上げてバンザイポーズ。
高い高いと猫を抱き上げ、ひんやりボディを胸に抱くはずだった。
それが今、猫の霊体は伸びに伸びて2メートル。
足が床に着いている、自分の足で立っている。
もはやこれは抱っこじゃないわ。
向かい合って立ってるだけだ。
どういう事だと改めて上を向く。
すぐ目の前に立っているのは、間違いなくさっき視た斑模様の妖怪だ。
巨大な霊体は、縦にも横にもすこぶるデカイおすもう体型、……なんだけど、落ち着いてよくよく視れば、背はともかく横幅はフェイクかも。
フワンフワンな長毛が若干ボワッと逆立ってるから、霊体が大きく視えたんだ。
“猫あるある” だ。
長毛種の本体は、たいてい細いと決まってる(お風呂に入れると毛が濡れてヒョロっとしちゃうアレ)。
「”斑模様 ”の正体はキミだったのか……」
頭の中で疑問符が量産された。
斑模様の妖怪は、実家で悪さをしてたんだ。
家の中を歩いてまわって変な音をさせてたし、我が家のアイドル、きなこの事も脅かした。
しまいには僕の大事なスィートハニー、大福までさらったの。
悪行三昧だ(特に猫関係)。
なんだけど……
「キミは悪い子なの……?」
思わず聞いた。
答えてくれるか分からないけど、でもさ、さっきの姿を視ちゃったら……ねぇ。
とてもじゃないけど悪い子とは思えない。
斑模様のサビ猫は(巨大バージョン)、人の言葉が分かるのか、それともただの偶然なのか、ゆっくりと頭を下げて僕を視た。
その顔はのっぺりとして凹凸がない。
さっきは ”顔ナシ妖怪” だ、なんて思ったけどさ。
これもアレだ、長い毛が、顔まですっぽり覆ってたんだ。
てか目……痛くないのかな?
岡村家家訓____いかなる時も猫を助けよ。
家訓に乗っ取り僕は両手を脇から抜いた。
そして、顔にかかる長毛を優しく真ん中でかきわける。
すると……
キュルンと可愛い金の瞳と目が合った。
あ、キュート。
大きくなっても猫はやっぱりラブリーだ……なんて、呑気に思ったその時だった。
斑模様のサビ猫は(巨大バージョン)、大きな口を薄く開いてヘンな声を出したんだ。
『カ……カカカカ……カカカ……カカカカカカカ』
これ……さっきも斑が言ってたヤツ。
リズミカルな小さな声だ。
サビ猫は(巨大バージョン)、”カカカ” と鳴いて僕の顔をジッと視てるんだけど……これはクラッキングだ。
猫が獲物を見つけた時、それに興味を持った時の鳴き方。
なあんて。
誰に聞かすでもない ”猫ウンチク” を、心の中で独り言ちた数秒後。
『へにゃ、』
短く鳴いたサビ猫は、 ”カカカ” という声を止め、代わりに大きく口を開け……
パクッ!
え?
思ったのは一瞬だった。
生臭いサカナの匂いが鼻をついた直後、僕の視界が暗くなる。
あれ?
僕、今、サビ猫(巨大バージョン)に食べられてない……?
最初のコメントを投稿しよう!