第二十二章 霊媒師 岡村英海

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「ああ……ヨダレでベタベタだ」 頭と顔に手をやると、滴る程に濡れている。 そしてほんのりナマグサイ。 今の僕はオサカナ臭をプンプンさせて……いるんだけど、不思議なもので、さっきまではクサクてイヤだなと思っていたのに、匂いの主が猫だと分かれば気にならなくなるんだよ(すごくなーい?)。 この魚臭はそれだけゴハンを食べてる証拠、ヨシ! エライぞ! 良い子だねぇ! たんとお食べ! とまぁ、岡村家全員が持つ(3人だけど)”猫溺愛スキル” が発動されるのだ。 僕を放したサビ猫(巨大バージョン)は、後ろ足で直立したままキョトンと首を傾げてる。 ん……襲ってくる気は……なさそうだ。 だとしたら、さっきのは一体なんだったんだ? 僕を食べるつもりなら、バリボリ噛んでもおかしくないのに、サビがしたのは甘噛みだけだ。 改めて頭と顔をさわってみたが、負傷ヶ所はどこにもない。 ただひたすらにベタベタしているだけなのだ(ヨダレで)。 サビの真意が分からない……なので直接聞いてみようと口を開けかけた時だった。 ザンッ! 荒ぶるお姫がサビに飛びつき、その首元をガブガブと噛みだした。 『に゛ぎゃっ! ω∑#%¥※ー!!』 ちょ、大福、めっちゃ怒ってる。 興奮しすぎて巻き舌すぎて、なに言ってるのか分からない。 対し噛まれるサビ猫は、大きな霊体(からだ)を縮こませると、 『へ、へ、へにゃあ!!』 これ以上ない弱そうな声で鳴いた。 容赦のない大福は、気弱な感じで『へにゃへにゃ』鳴いてるサビ猫に、さらなる追い打ちをかけた。 『ふっがぁぁぁ!(ケリケリケリケリ!)』 首元をガブガブしながら同時、後ろの足で連続キックをお見舞いしたのだ。 『へな、へなぁ……へにゃぁぁん!』 サビ猫はこれ以上ない情けない声で鳴いた。 そしてすこぶるへっぴり腰で、霊体(からだ)をくの字に折り曲げて、荒ぶる姫から逃げようとして…………ボンッ! 謎の音がした。 たとえるならアレに似ている。 カップ焼きそばを作る時、お湯をシンクに流した時にするような、いきなり鳴ってビックリしちゃう ”ボンッ!” ってあの音。 そんな音がした直後。 巨大なサビは、元の小さな猫の姿に変化した。 で、戻るやいなや。 ツタタタタターーー! ダッシュで僕に駆けてきて、助けてくれと言わんばかりに膝の上に乗ってきたのだ。
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