第二十二章 霊媒師 岡村英海

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「わっ!」 サビ猫に飛びつかれ、そのままヨロっとベッドの上に腰かけた。 膝の上には推定3~3.5キロの小さな猫。 斑の毛皮をボワッと逆立て『へにゃっ!へにゃっ!』と鳴きながら、小さなオデコを僕の脇腹に押し付けた……が、それだけじゃ終わらない。 脇腹と下げた腕、その僅かな隙間に頭をグイグイ押し込んで、首まですっぽり入った所でようやくサビは動きを止めた。 ”うん” とも ”へにゃ” ともなんにも言わず、ただただジッと息を潜めているのだが……こ、これってさ、 頭隠して尻隠さず____ じゃないか……? 確かに頭は隠れてるけど、首から下は清々しいほど丸視えだ。 ま、まさかサビ猫……これで隠れたつもりなの? ウソだろ? や、だって、いくらなんでもコレはナイ。 こんなんじゃあ、すぐにお姫に捕まっちゃうよ。 せめてさ、背中の後ろに回るとか、ベッドの中に潜るとか、他にも色々あるでしょうに。 唖然としながらサビを視た。 頭を隠した小さな霊体(からだ)は、ふわんふわんのパヤパヤで、思わず手が伸び丸い背中を撫ぜ撫ぜすると、 ゴロゴロゴロゴロゴロ…… 気持ちが良いのか、大きな音で喉を鳴らし出したんだ。 サビ猫よ……せっかく鳴かずに静かにしてても、それじゃ台無し意味がない(ま、それ以前に霊体(からだ)が丸視えだけどさ)。 ダ、ダメだこの仔……あまりに弱い、あまりにヘナチョコ。 こういう猫は手厚い保護が必要だ。 てか、こんな調子で生きてた頃とかどうしてたんだ? 今更ながら心配するよ。 湧き上がる保護本能。 ひたすらサビを撫ぜ撫ぜしてると、お怒りモードの大福が、優美なジャンプで膝に飛び乗り丸視えオシリに噛みついた。 『うっなーー!』←大福、雄叫びのあとカプカプカプカプ(どうも手加減してるっぽい) 『へ、へにゃっ!?』←サビ猫、どうしてバレたにゃー!(そりゃバレるだろ) と、ココで。 真剣な猫達には悪いけど、僕にとってのフィーバータイムが始まった。 膝の上では2匹の猫がキャットファイトで団子になってる。 右に左にコロコロ転がり、2匹分の体重を(合わせて推定9キロ弱)ズシッと感じて至福時間、ナニコレ最高、ナニコレ極楽。 僕、希少の子で良かったよ、霊体に物理干渉出来るってマーベラスゥ! …… ………… それから約10分後。 いつの間にやらキャットファイトが終了し、2匹の猫は互いの霊体(からだ)を毛繕いし始めた。 サビ猫は目をつむり、さっきみたいにゴロゴロ喉を鳴らしてる。 ありゃま、すっかり仲良くなっちゃった。 可愛いなぁ……天国だなぁ……実家(ここ)には大福とサビ猫と、それにきなこもいるんだもの。 そりゃ最高だ、仕事で来たのを忘れそうになっちゃうよ。 イカンイカンと気を引き締めて、僕は首をコキコキ鳴らして上を見た(下を視ると可愛い仔達にニヤけちゃうからね)。 さてこれからどうしよう。 まずはサビに事情聴取かな。 どうして岡村家に来たのか、目的はなんなのか、そういうのを全部聞いて、それで色々決めていこう。 この仔はあまりにヘナチョコで、とてもじゃないけど悪い子には思えない。 きっと事情があるんだよ、……なんて事を考えて、ぼんやり部屋を見ていた時だった。 ふと、目に入ったモノに僕は言葉を失った。
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