第二十二章 霊媒師 岡村英海

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上をしばらくジッと見て、それからすぐに下を視る。 下をしばらくジッと視て、やっぱりすぐに上を見る。 それを何度も繰り返す、似てるだけかもしれないし、思い込みかもしれないし、まだ今は、はっきりとは分からない。 高い目線の先にあるもの、それはたくさんのフォトフレームだった。 両親(ふたり)の使う茶色いタンスの天板に、歴代のウチの()達がおすましポーズで並んでる。 白猫黒猫、パンダ猫に三毛猫も、トラシリーズは ”茶トラ” に ”キジトラ”、”サバトラ” だ。 どの仔も美ニャンで、どの仔も年を取っているけど、それはすなわち長生き猫が多いんだ。 よく食べてよく眠り、よく遊びまた眠る。 そうやって年を重ね、20年に届くかどうかで天に召されてニャン生を終える。 残された人間は悲しみに涙するけど、一緒に過ごした幸せな日々が消える訳ではない。 だからこうして写真を飾り、眠る前に思い出しては懐かしみ感謝をするのだ。 …… …………並ぶ写真、その中の1枚。 そこに写るのは岡村家の初代の猫で、名前は ”おはぎ”……と言うらしい。 ”らしい” と言うのは、僕は直接知らないからだ。 正確に言えば、残念ながら記憶にないの。 この猫は、僕が生まれる少し前に迎えた仔。 そして……僕が2才になる前に、病気で亡くなってしまった仔なんだ。 母さん達の話によれば、”歴代の猫達の中で1番の優しい仔” で、幼い僕にぴったり寄り添い、泣けばぺろぺろ舐めてくれ、決して爪を立てる事なく面倒を見てくれていたんだって(・・・・・・・・・・・・・・)。 ____本当に優しい猫だったわ、 ____チビだけど人の言葉が分かるみたいな感じがしてた、 ____穏やかで、のんびりしてて、ちょっぴりオバカなことろもあって、 ____でも……ふふふ、そこがとっても愛しいの、 ____写真を見てごらん、 ____良い顔してるでしょう? ____毛皮も綺麗な柄でしょう? ____黒とオレンジの混ぜこぜ模様、 ____こういう仔は ”サビ猫” って言うのよ、 ____この仔を見てると甘いあんこの丸いのが食べたくなるから…… ____それで名前を ”おはぎ” にしたの、 初代サビ猫。 その写真をジッと見る。 僕の記憶にない猫だけど、話はたくさん聞いてきた。 優しくてちょっぴりオバカな愛しい仔。 並ぶ写真で唯一若い2才の猫だ。 膝の上の幽霊猫。 その姿をジッと視る。 さっき視つけたばかりの猫だ。 ちょっぴりオバカで ”頭隠して尻隠さず”、それで隠れたつもりでいた仔。 変化(へんげ)を解けば小さくて、推定2歳の若い猫。 この猫はもしかして……でもな、サビ猫なんてそこいらじゅうにたくさんいるよ。 写真と比べて似てるような気はするけどさ、だからと言って確信はないんだよ。
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