第二十二章 霊媒師 岡村英海

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初代の事は話で聞いてはいるけれど……ごめんね、当時の僕は幼すぎて記憶に残ってないんだよ。 一緒に暮らして過ごす時間が多くなれば、どんなに似たよな柄の仔だって、他とぜんぜん違って見える。 ふとした表情、ふとした仕草、さわり心地も頭の匂いもその仔だけが持ってるものだ。 それを知らないものだから、この仔が初代かそうでないのか分からない。 そんな僕が、唯一知ってる事といえば…… 膝の上で幽霊猫はお姫とくっつき大きな団子になっている。 白くてもちもち大福と、斑模様で丸くて甘そな____ 「…………おはぎ、」 おいしい和菓子とおんなじ、母さん達が愛を込めてつけた名前だ。 上から視るとふっくら黒くておいしそう、一緒に緑茶が飲みたくなるの。 ホントにおはぎにそっくりだ。 優しい甘さでほっこりしちゃう、2つも食べたらお腹もいっぱい。 幸せがギュッと詰まった名前を呼んだ。 もしもこの仔が初代なら、なんらか反応を示すはずだが………… 『へにゃ?』 レスポンスは思った以上に早かった。 呼ばれた猫は丸くなった団子のままで、返事をしながら顔だけクルリとこちらに向けた。 偶然か? それとも返事をしたのかな? 見極めようとサビた模様の可愛い顔をジッと視る……と、目が合って、途端喉が鳴りだした。 「おはぎ、」 もう一度名前を呼ぶと、『へな……』とごくごく小さく鳴いて、 パチ……パチ……パチ…… 今度はゆっくり瞬きをし始める。 「おはぎ」 再び呼んだ、何度も何度も呼んでみた。 呼ばれた猫は飽きもせず、呼んだ数だけレスポンス。 試しに、「大福」とも呼んでみたけど、それはスルーでキョトンとしてた。 丸い顔、丸い霊体(からだ)、丸い金目の斑模様。 黒と橙、混ざった色は甘いあんこを思わせて、”おはぎ” と呼べば嬉しそうに僕を視る。 …… …………間違いない。 命のないこの猫は、ウチの初代のサビ猫だ。
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