第二十二章 霊媒師 岡村英海

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『へにゃ! へにゃ!』 撫ぜながら名前を呼べば、膝の上でお腹を視せて、四肢を伸ばしてじゃれてくる。 隣に座る大福は、そのたび霊体(からだ)にぶつかられるけど、気にするでもなくドドーンと余裕の香箱座り。 僕にとってのフィーバータイムは継続中だ。 斑毛様の正体が分かったところで事情聴取に移りたい。 おはぎの命が終わったのは、今から約28年前。 この仔は僕が生まれる少し前に保護されて、それから2年、僕らは一緒に暮らしたの。 亡くなったその後は、おはぎが実家(ここ)に現れた事はない。 来れば僕には視えたはずだ、……だが1度も視なかった。 大学を卒業し、それを機会に僕は実家を出たけれど、出てからの8年間もそれらしき気配はなかった(そんな話も出なかったし)。 だからきっと、おはぎが現世にやって来たのは今回が初めてだと予想。 それまでは黄泉の国にいたはずなんだ。 そうでなければ長い年月、綺麗に霊体(からだ)を保ってられない。 おはぎはどうして現世に来たの? それだけじゃない。 どうやって来たかも気になるし、なによりなんで今なのか。 少しずつ……聞いてみるか。 おはぎのお腹をコチョコチョしながら、僕はゴキゲンな幽霊猫に声をかけた。 「おはぎ、たのしい?」 『へにゃ!』 「おはぎ、うんと昔、このオウチにいたよね?」 『へにゃ!』 おはぎは僕の質問に元気に答え、そのたびに可愛く頷く。 人の言葉は分かるみたいだ。 だけど……話す事はどうだろう? 僕の愛しのスィートハニー、大福も人の言葉を理解する。 理解だけじゃない、その気になれば話す事も出来るのだ。 前に一度、キーマンさんと人語で話していたのを聞いた事がある。 それはもう片言のレベルではなかった。 ____笑止、 ____声が震えているぞ? ____図星で動揺してるのか? ____弱いな、若き人の子よ、 なんて。 凛とした女性の声で力強い話し方。 霊力(ちから)がない事を嘆くキーマンさんを、厳しく優しく諭していた。 種族をこえたバイリンガル、それが三尾の大福だ。 だけど……それだけ悠長に話せるのに、姫は決して僕に人語を使わない。 ”うなぁ、うなぁん” と、可愛く鳴くだけなんだ。 どうして僕には話さないのか、その理由は分からない。 もし、もしもおはぎが人の言葉を話せるのなら、今回ばかりは是非とも喋っていただきたい。 現世に、岡村家に来た理由が知りたいんだ。 ★大福がキーマン相手に人語で喋りまくったシーンがココです。 https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=384&preview=1
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