第六章 霊媒師OJT-2

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『お父さん……』 ユリちゃんよりも少し高めの声。 頬に涙の痕を残した田所さんが膝をつきお父さんの肩に両手を置いた。 ビクッと大きく身体を揺らし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を上げたお父さんは、間近で見た娘の顔に口角を歪め絞り出すように許しを乞うた。 『……貴子ぉ……ごめんなぁ……ごめんなぁ……本当にごめんなぁ……』 田所さんはそんなお父さんを優しく見つめ、そして目を閉じた。 『お父さん……ごめんなさい。辛い想いさせてしまって……親不孝でごめんね。私……田舎にいた頃……なんの不自由もなく暮らしてた。お金に困った事もないし、毎日おいしいご飯が食べられて、習い事だって好きな事させてもらえた……あの頃ね、今思えば恥ずかしいけど、そんな生活が当たり前だと思ってたんだ、あはは、馬鹿でしょう? 当たり前なんかじゃなかったのに、あれは働き者のお父さんと家の事みんなしてくれてたお母さんがいて、私は2人の努力と愛情に守られていたって事、ぜんぜんわかってなかった』 『貴子……なに言ってんだ? 俺が金を稼ぐのも母さんが家事をするもの、おまえを守る事もみんな当たり前のことだろうが、』 田所さんはそっと目を開けると、苦く微笑みゆっくりと否定した。 『当たり前じゃないよ……私は恵まれていたの。それなのに、田舎で一生を終えるのは嫌だなんて、ただそれだけの理由でお父さんとお母ちゃんに嘘をついて、上京しても自分1人でなんだって出来る気になって、思い上がって、』 『思い上がりなんかじゃねぇよ、貴子には夢があったんだろう? それをわかってやれなかった俺が悪いんだ、だから、』 『違う! 違うの!!』
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