第二十二章 霊媒師 岡村英海

53/159
前へ
/2550ページ
次へ
期待度MAX、僕はもうワクワクしながら更なる続きを待っていた、……が、しかし。 『はぁはぁはぁ……へにゃ……へに……へ……』 ポテッ! 小さな猫は、突如その場に倒れてしまった。 「おはぎーーー!」 + 『うななーーー!』 顔面蒼白、僕も姫も大いに慌ててテンパった。 「うわーー!! どうしたーー! 大丈夫!? ごめん、すぐに癒しの霊力(ちから)をかけたげるから! おはぎ目を開けて、お願いー!!」 両手を合わせてマッハで霊力(ちから)を溜めていく、この頃チャージは早くなったと思っていたけど、焦る分だけもどかしい、早く……もっと早く溜まってくれ! 大汗掻いて霊力(ちから)を溜めた。 すぐにこれをおはぎにかけてと、手をかざしたその瞬間。 『くかぁーー』 オッサンンみたいな寝息が聞こえた。 「あ、あれ? おはぎ……寝てる?」 僕と姫で倒れる毛玉を覗き込むと。 くかぁーー(スヨスヨ……) くっかぁーー(ムチャムチャ……) すこぶる平和な顔をして、おはぎは眠りこけていた。 もしかして……人語を話して疲れちゃったのかな? かな? ホッとして気が抜けた、それと同時にめちゃくちゃ反省した。 僕はおはぎに無理させたんだ。 目線を移せば尻尾は1本、この仔は普通の幽霊猫で大福とは違う。 それでも、普通の猫が人の言葉を理解するというのが、どれほど凄い事なのか。 さらにはたったの一言だけど、僕の名前を確かに呼んだ。 いや……大したものだよ、さすがはウチの仔、天才だ。 それと……おはぎは僕の事、覚えてくれてたんだな。 当時の僕は幼子で、今の僕とは姿が全然違うのに、それでも気付いてくれたんだ。 「おはぎ……ありがとね」 すやすや眠る斑の猫の、小さな鼻にそっと指を着けてみた。 猫は指の匂いをスンスン嗅いで、寝ながら甘噛みをしはじめた。 可愛いな。 この仔を最初に視た時は、大きな霊体(からだ)の妖怪だと思ってた。 だけど違った、おはぎはウチの仔だったんだ。 享年2才の若い猫。 尻尾は1本、普通の猫で、ちょっぴりオバカで弱くてヘナチョコ。 このスペックじゃあ、1匹だけで現世に来るのに苦労も危険もあっただろうに。 事情が知りたい。 この仔の事情を知る事が、依頼解決最短ルートに続いてるんだ。 事情を人語で聞かせてもらう……これはもうさせられない。 だから別の手段で知ろうと思う。 スヨスヨ眠るおはぎの口から、僕は指をそっと抜く……大丈夫、起こしてない。 このまましばらく寝かせておこう。 自由になった手指を絡め、僕は覚えたばかりの霊視の印を結んだ。 うまくいくかは分からないけど、いかなきゃいくまでやるしかない。 僕が今回視たいのはおはぎの過去だ。 どんな事情で現世に来たのか……おはぎ、僕に教えてね。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加