第二十二章 霊媒師 岡村英海

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変えられない過去の世界。 僕はそこで、過去のおはぎに寄り添った。 この子がどうして現世に来たのか、このまま視てれば分かるかもしれない。 寝そべるおはぎは一通りの毛繕いが終わると、のそりと立ってのんびり歩く。 そして、小さな小川のほとりに座ると、んべんべと綺麗なお水を飲みだしたのだが、あはは、可愛い。 口の回りがビシャビシャだ。 たっぷりのお水を飲んで、大満足の小さな毛玉はキョロキョロと回りを視渡す……で、 『あっ! あんなトコロにいた!』 えっ! おはぎが喋った! や、ちょ、大丈夫なの? だって喋ると疲れちゃって、また倒れちゃうんじゃないの!? 僕の心配をよそに、おはぎは元気に走り出す。 早っ! え、あ、なんか……大丈夫みたいだな。 どうして喋り出したのか、その謎は謎のまま……なんだけど、まあいいや、言葉の壁がなくなるのは僕にとって好都合、これも今度先代に聞いてみよう。 とりあえず追いかけようと、急いで走り出したんだ。 だけどその時、僕の心臓は跳ね上がる程ドキンと鳴った。 え……? うそ……あれって、もしかして…… 跳ねる鼓動を感じつつ、マンガのように目を擦ってジッと視た。 目線の先、そこに映るは2匹の猫。 1匹はおはぎだ。 もう1匹は……はしゃぐおはぎに抱きつかれ、もみくちゃにされているのは雪のような白い毛皮の…………大福だ! マジか! 大福とおはぎはココで一緒だったのか! ああ、そうか。 だから最初に会った時、おはぎは迷わず姫に向かって行ったんだ。 今みたいに、はしゃいで抱きつき甘える為に。 ん……でもな、それならどうして大福は、隠れたりしたんだろ? 本当はおはぎが苦手だったりする……? いや、それはないな。 だって2匹になった途端、仲良く互いに毛繕いしてたじゃない。 むぅ……分からん……ま、視てればそのうち分かるかな?(分かるといいな) 2匹の様子を至近距離でウォッチング。 僕は早々また驚く事となった。 『小雪! 小雪! 今日はなにして遊ぶ?』 白い毛皮にしがみつき、おはぎは甘えてそう言った。 今……大福に向かって “小雪” って言ったよね。 大福、本当は小雪ちゃんって名前なの? 聞かれた大福は、ザリザリとおはぎを舐めてこう言った。 『そうねぇ、日向ぼっこが良いわねぇ』 この声……! あの時と同じだ! キーマンさんを厳しく優しく諭した声、その音色も話し方も全く一緒! 『日向ぼっこぉ? んー、それも良いけど追いかけっこしようよぉ! ねぇてば小雪ぃ!』 何をしたいか聞いといて、結局自分のしたいコトを主張するチビ子。 大福は怒るでもなく、呆れるでもなく、笑いながら言ったんだ。 『良いけど……おはぎは走るの遅いんだもの。すぐに捕まえちゃうわ』 た、確かに。 猫にしてはおはぎは遅い。 ま、そこも可愛いけど。 『へにゃっ! そ、そんなコトない! おはぎ早いもん!』 『ふぅん、そうだったかしら』 『えと……そだよ、早いんだよ、』 あらら、だんだん声が小さくなって。 本ニャンも遅い自覚があるようだ。
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