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『貴子……?』
『ごめんなさい……違うの、嘘なの。私……お母ちゃんには美容師になりたいから東京に行きたいって言ったけど嘘なの。ただ、ただ田舎が嫌で、東京に憧れて、東京に行けば楽しい事が待ってるって、東京にさえ行けばあとはなんとかなるって……そんな浅はかな気持ちだけだったの。だから……バチが当たったの、だから頼れなかったの、自分が悪いんだから自分でなんとかしなくちゃって、それで……』
『な……馬鹿が……』
『ご……ごめんなさい……私……あの頃どうしても東京行きたくて……自分の事しか考えていなかった……ああ……くだらない嘘ついて、ごめんなさい……』
『馬鹿野郎が……』
『……本当に……ごめんなさい……』
『俺ぁ、こんな馬鹿に育てちまったのか……』
『ごめ……本当に……せっかく逢えたのに……失望させちゃった……』
歯を食い縛ってボロボロと涙を流す田所さんと、苦虫を潰したようなお父さん。
僕はたまらず声を上げかけた、が、不意に肩を掴まれ止められた。
振り向けば鋭い眼光で僕を見る社長と、その後ろで先代も小さく首を横に振っていた。
でも……!
と言いかけたその時、蹲り泣いていたはずの70才は、またもやバネ仕掛けよろしく跳ね起きると眉を吊り上げ怒声を上げた。
『この馬鹿娘がぁ!!』
その音量は部屋中の窓ガラスがビリビリと震える程で、悪鬼再来に不覚にも社長の腕にしがみついてしまった……や、今の無かった事にしてください。
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