第二十二章 霊媒師 岡村英海

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姫の説明は要約するとこうだった。 大好きな飼い主に選ばれなかった動物達。 その数は少ないけれど、珍しい事ではない。 様々な理由から、迎えに来ない飼い主がいる。 今回の大福は、享年63才の主さんが若くして認知症を患ってしまった事が大きな原因となったみたいだ。 主さんが飼った動物は生涯で2匹。 猫の ”小雪” と、ハムスターの ”小雪” だ。 なぜか同じ名前をつけ、可愛がっていたのだが……不幸にも、猫の事は忘れてしまったのだ。 規則として、お迎え対象に選ばれなかった動物達は現世に行くのが決まり。 その主な理由は……そう、悪霊化を防ぐ為だ。 動物よりも人間の方がどうしたって寿命が長い。 虹の橋で待ち続ける動物達は、それだけ長い期間待つ必要がある。 待って待って待ちくたびれて、なのに迎えが来ない、来たけれど自分の事は忘れてる……となった時、その飼い主と動物が同じ黄泉にいるとなれば……下手をすれば、悲しみのあまり悪霊となってしまう。 もし、そうなってしまったら、黄泉の国の特殊部隊が出動する事態となる。 そうならないよう一旦現世に送り込むのだ。 現世に着いたら、猫でも犬でもウサギでも、もちろん人でも構わないから、なにか良い事を、役に立つ事を、救う事をしてくるようにと指令が出る。 誰かの役に立てば、それは自己肯定にも繋がるし、第一、やる事もないままに現世に行けば、持て余す時間は思考をネガティブにする。 そうさせないようやる事を与える。    大福も同じだ。 そういう経緯があったから、はるばる現世にやって来たのだ。 そして、僕と姫は出会った。 季節は春で桜がキレイだったのを覚えている。 ああ……大福にこんな過去があっただなんて……僕は何も知らずに、この仔からたくさんの幸せをもらい、たくさんの癒しをもらい、たくさん助けてもらってきた。 僕はしてもらってばっかりだ。 僕は……僕は、大福を癒してあげれてるのだろうか。
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