第二十二章 霊媒師 岡村英海

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コンちゃんは鼻先でおはぎの涙を拭うけど、あとからあとから溢れてしまって、とてもじゃないけど間に合わない。 それでも、コンちゃんはおはぎを励まし続け、やっとのコトで涙は止まってくれたのだが…… 『へ、へにゃ、グズズ、へにゃ……グズグズ……泣いちゃってゴメンネ、ありがとね、……おはぎ、すごく不安にゃの、おはぎだけ忘れられたらどうしようって、すごく怖くて、グズグズ……だからね、それでね、決めたんだ、……あのね…………おはぎが今から言うコト、誰にも言わないで、コンちゃんだけに話すんだから』 さらに声を潜めるおはぎは、コンちゃんに念を押す。 『な、なに? 内緒の話? ダイジョウブ、ボク誰にも言わないよ』 コンちゃんもそれに応えて、声を潜めた。 2匹はいまだくっついたまま、至近距離で目を合わせると秘密の会話が始まった。 『あのね、おはぎは……おはぎは……現世に行くにゃ(コソコソ)、行って、トウとカアに会ってくる(ヒソヒソ)』 『えぇ!? お、おはぎ本気なの?(ヒソヒソ) げ、現世に行くってどうやって?(コソコソ)危ないよ、そんなのダメだよ(ヒソヒソヒソ)』 『どうやって……は、これから考えるにゃ。でも行くよ、トウとカアがおはぎのコト忘れてないか確かめたいんだにゃ。もし忘れてたら思い出してもらうの』 『で、でも、おはぎになにかあったら大変だよ。前に小雪から聞いたんだ、現世には悪い霊もたくさんいるって、虹の広場とはぜんぜん違うって。そんな所に猫1匹で行ったら……ダメ、ダメダメダメ! ボクは反対だよ!』 『へにゃ……お、脅かさないでよ、現世ってそんなに怖いトコロなの? …………へ、へにゃ……へにゃ……で、でも、行くにゃ、だ、だって、そうじゃないと、この先ずっと不安で、こんな気持ちのまま待ってるのやなんだもん』 『あ……ずっと不安なのは辛いよね……で、でも……それ、シャチやサンは知ってるの?』 『知らない、内緒、だって反対されるもん。言ったでしょ? コンちゃんだけに話すんだよって』 『……言った』 『だから内緒、絶対誰にも言わないで』 『ニョ、ニョロロ……』 コンちゃんは心底困った顔をして、どうしていいか分からない様子だった。 対しおはぎは幼い顔をキリリと引き締め、強い決意を露わにしていたのだが…… ああ、そういう事だったのか。 おはぎが現世に来た理由はこれだったんだ。
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