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『いいか貴子、俺を舐めんなよ?』
『ご、ごめんなさい、私、嘘つい、』
怯えた子犬のような顔で言葉を繋げようとする田所さん。
だが自他共に短気を認めるお父さんはそれを許さず強引に割り込んだ。
『おまえが美容師なりたいなんて、それが嘘だって事くらい知ってたわい!!』
『え?』
せっかくの美人が台無しなレベルでのポカン顔、『え?』の一言を発した後、口を開けっ放しにした田所さんに、お父さんはこう続けた。
『だから! 母さんは素直だからよ、貴子が美容師になりたいってのを信じてたみてぇだけど俺は嘘だってわかってた。大体よ、貴子は男の俺から見てもおしゃれとか化粧とか無頓着だったし、それにスゲェ不器用だっただろうが。そんな貴子がいきなり美容師になりたいなんて嘘クセェ事この上ねぇだろ。こりゃ東京に行きてぇだけなんだなってすぐにわかったさ』
『知ってた……んだ』
『そりゃあな、これでも俺はおまえの父親だし、母さんと違ってひねくれてるしよ。それに小学校の頃夏休みの工作はみんな俺が作ってたじゃねぇか』
『あ、うん。そうだったね、』
『ああ……この馬鹿娘が……「嘘ついて出てきたから」そんなくだらねぇコト気にして親に頼らず無茶するなんてよぉ……でもな、やっぱり俺が悪いんだ。美容師になりたいからなんて嘘つかせちまったのは俺の責任だ。おまえの本当の夢は東京そのものだったんだよな。その夢を俺に言えば怒られると思ったんだろう? そんなふうに思わせちまったのは他の誰でもねぇ、この俺だ。すまん』
『お父さん……』
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