第二十二章 霊媒師 岡村英海

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現世に着いて早々、迷子の猫は途方に暮れた。 少なすぎる参拝者がおはぎの横を過ぎるけど、生者の目には幽霊猫の姿は視えず、誰一人気が付かない。 気付いたとして、おはぎは猫の仔だ。 人と言葉が通じないから、迷子だと訴えたって解決には至らない。 『……ヒック……グズグズ……トウ……カア……どこぉ……? 兄ちゃん……姉ちゃん……コンちゃん……小雪……おはぎはどこに行けばいいのぉ……?』 ああ……とうとう泣き出してしまった。 無理もない、こんなの人の僕でも心細いよ。 視てると辛くて悲しくてやりきれない気持ちになる、……だが、リアルのおはぎは今現在岡村家にいるのだ。 それはすなわちココから逆転、頑張って家まで辿り着いたという事で、それがどういう手段だったのか、僕は気になりひたすら猫を視守った。 ひとしきり泣いたおはぎは、小さなアンヨで顔を洗って涙を拭いた。 そして、 『おはぎ……がんばるよ、トウとカアにあうの』 そう独り言ちると鳥居を視上げ、たぶんきっと当てずっぽうに小さな一歩を踏み出した。 方向なんて分からないのに、それでも前に進むおはぎは、なかなかどうして強い仔だ。 そんなおはぎを心配半分、頼もしさ半分で、僕は後ろを着いて行く。 60a1bb2c-5324-4bf3-a0ce-76b067a09563
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