第二十二章 霊媒師 岡村英海

80/159
前へ
/2550ページ
次へ
____もう大丈夫だ、 言われたおはぎは、わなわな尻尾を震わせて、そのまましばし固まった。 シェパードは、そんなおはぎを目線を下げて視つめていたが…… 『……グズグズ……グズ……へにゃぁぁぁぁん!』 小さな猫は助けてもらってホッとしたのか、今になって大声で泣き出した。 大きな犬は慌てるでもなく冷静に、泣く仔の前で霊体(からだ)を伏せると、背中に乗れと静かに言った。 おはぎはそれに素直に従う。 へにゃへにゃと泣きながら、正面の犬の顔によじ登り、鼻からオデコ、オデコから頭、頭から背中へと移動した。 大きな背中に辿り着いた泣き虫は、四肢を広げてしっかりとしがみ付く。 『落ちるなよ、』 犬は短く言って立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。 向かった先はさっきの神社で、人気(ひとけ)のない池のほとりに到着すると、柔らかい草の上に猫を降ろした。 …… ………… 木々の隙間。 そこから陽ざしが斜めに降りて、黒い毛皮に光があたる。 シェパードは草の上に霊体(からだ)を置いて、サビ色猫に語り掛けていた。 『落ち着いたか?』 おはぎは聞かれてコクコク頷く。 そして、 『へにゃ……おはぎを助けてくれてありがと』 眩しい光に目を細めてお礼を言った。 今はもう泣いてはいない。 ただ少し疲れは視えるが。 ああ……だけど良かった。 一時はどうなる事かと思ったよ。 シェパードが来てくれなかったら本当に危なかった。 出来る事なら僕からもお礼を言いたいくらいだ。 おはぎのピンチに颯爽と現れたこの犬はまさしくヒーロー、正義の味方だ。 カッコ良かったな、ヒーローはどこからともなくやって来て……ってウソ、どこから来たのか予想はついてる。 ”犬” だし、 ”幽霊” だし、広場で動物達(みんな)が言ってたし。 この子はアレだ、虹の橋のふもとから現世に送られたという例の犬の子だ。 でもなぁ……この子はどうやって現世に来たんだろ? 謎の”矢印” にシェパードは乗っていなかった。 てか”矢印”近くにもいなかったよねぇ。 新たにうまれた小さな疑問……なんだけど、このまま2匹の会話を聞けば分かるかもしれないと、おはぎの隣で続きを聞いた。 『そうか、名前はおはぎと言うのか』 わぁ……なんか良い声してるなぁ。 低音で落ち着いて、頭の中にすっと入ってくる。 『うん、おはぎっていうの。犬さんは?』 あ、名前、僕も知りたい。 この視た目だ、きっとカッコイイ名前に違いない……と思っていると、シェパードは予想以上の渋い名前を口にした。 『私の名前は ”雷神号” だ。(あるじ)がつけてくれた』 『らいじんごう? ム、ムズカシイ名前だね……ら、ら、らいじん……言いにくいにゃ……んー、そうだ!  ”らいちゃん” って呼んでもいい?』 あらら、せっかくの渋い名前がおはぎにかかると可愛い名前になっちゃった。 ”らいちゃん” 呼びに許可を求める小さな猫に、雷神号はクールな顔を崩されて、 『ら、らいちゃん……? うむ……構わんが、……らいちゃんか……、』 子供相手にそれはイヤだと言えるでもなく、アセアセしながら許可を降ろしたのだ(なんとなく社長とユリちゃん思い出しちゃったよ。マコちゃん……♪)。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加