第二十二章 霊媒師 岡村英海

81/159
前へ
/2550ページ
次へ
『らいちゃんって強いんだね、さっきはすごかったにゃ! だーーって走ってきて、がぶーーって噛みついて、どーーんって押さえて、ニャッという間に悪いニンゲン追い払っちゃった!』 あらら、小さな猫は大興奮だ。 大きな犬の黒い毛皮に埋もれるように抱き着いて、キラキラおめめで話してる。 雷神号はそんなおはぎをぺろりと舐めると優しい顔で、でも淡々とこう言った。 『男はおはぎを拘束していた。おはぎを無傷で救出するには男の隙をつくしかなかったのだ。故に、素早く飛び込み即座に制圧するのが最良と判断し、私はそれを実行に移した、』 『へ、へにゃ……? コウソク? ソクザ?? セイアツ??? へ、へにゃにゃ?』 おはぎにしたら聞き慣れない、いや、初めて聞くよな単語の羅列にハテナマークを大量生産、頭から煙が出そうな勢いだ。 『生前、そういった判断はすべて主が行っていたのだがな。死して主と離れてしまった。故に、私の中に刻み込まれた主の正義に従ったのだ。たとえ主が不在でも彼の正義が私を動かす。そう、いつでも、何処でも、どんな時でもだ』 ぷしゅーーーーーっ! あ、とうとう煙が出ちゃったよ。 子供のおはぎに今の話は難解すぎた。 僕は一応大人だし、雷神号の言ってる意味は分かったけどさ、だけどさ、まさかさ、こんな話を犬の子から聞くだなんて思ってもみなかった。 しっかりしてる、……どころじゃない。 賢いにも程がある、この子はただの犬ではないよ。 この犬種、仕上がったこの霊体(からだ)、さっきのおはぎ救出劇も、そう考えれば辻褄が合う。 この子はきっと、 『すまなかった。今の話は子供には難しかったな。私は人間社会に溶け込みすぎた。犬らしさがないとよく言われるのだよ。私は○○県警直轄の警察犬だ。幼い頃から訓練を受け、人の言葉を覚えたのもその頃からだ』 やっぱりそうか。 この子は、雷神号は警察犬だったんだ。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加