第二十二章 霊媒師 岡村英海

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雷神号は警察犬。 そう説明されたとて、仔猫のおはぎはあんまり意味が分かってない。 それでも、 『おはぎ……ムズカシイコトは分かんないけど、らいちゃんは強くて優しいの、……とゆーコトは、ケイサツケンってすごいんだね、らいちゃんカッコイイね!』 と、そう遠くない答えに行き着いた。 そして犬の警察官は迷子の猫の質問責めにあうのだが…… 『えぇ! 現世送りになった犬さんって、らいちゃんのコトだったの!?』 おはぎがガチで驚いてる。 え、うそ、こんだけヒント出まくってたのに気づかなかったの? そんなおはぎに僕がびっくりだよ。 『でもでも、現世までトンネル通ってきたけど、らいちゃんいなかったよ、どこにいたの?』 その答えは単純だった。 宙を飛ぶ赤い ”矢印” 、通常はアレの後ろを歩くなり走るなりして着いて行き、現世までの道案内をしてもらうだという。 だが、50メートルを6秒ジャストで走る雷神号にとって、”矢印” はアクビが出るほど遅かった。 最初の説明で、道は真っすぐ1本だと聞いていたので、とっとと走って先に現世に行ったんだって。 なるほど、それで姿が視えなかったのね……って、それよりもあの”矢印”、乗り物じゃなかったんだ、やたらと巨大なナビゲーションだったんだ。 『へにゃー、らいちゃんスゴイねぇ、足早いんだねぇ。おはぎは走るの遅いからうらやましいよ』 あー、うん。 確かにおはぎは遅いよね。 でもいいよ、可愛いから遅くたって問題ないよ。 こんな感じで次々飛び出すおはぎの質問。 子供だから言うコトがいちいちカワイイ。 それに対して雷神号もいちいち真面目に返すんだ。 なんだろ、この2匹って意外と気が合うんじゃないの? ……なんて思っていたのに。 おはぎの次の質問は、聞いてる僕がヒヤヒヤするよなデリケートな内容だった。 それが…… 『らいちゃんは、どうして現世送りになったの……? 広場でみんなが言ってたんだ。犬の主さんは虹の国まで来たのに、犬さんを連れて帰らなかったって。……もしかして、小雪の主さんみたいに、らいちゃんの事を忘れちゃったの……?』 これだった。 聞いてるおはぎは口をへの字に泣きそうな顔をしていた。 悪気があって聞いたのではないのだろう。 小雪の事があって、自分もそれで心配になって、だから思わず聞いてしまったのだ。 聞かれた犬の子、雷神号は表情を崩さなかった。 顔を下げて真っすぐにおはぎを視つめ、そして、静かに話し出したんだ。
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