第六章 霊媒師OJT-2

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『貴子、何度だって言ってやる。おまえはなんにも悪くねぇ。辛かっただろう? 恐かっただろう? 痛かっただろう? 助けてやれなくてごめんな、』 『……ううん、違うの、お父さん。確かに……東京での生活は大変な事も多かった。でもね、辛い事ばかりじゃなかったんだよ。就職して……期間は短かったけど仕事は楽しかったし、ユリが生まれた時にはこんなにかわいい子が私の娘だなんて信じられないって思ったわ。母親の私が言うのもなんだけどユリは本当に賢くて思いやりがあって、強くて優しい子、私の自慢の娘。ユリがいたから頑張れたの。ユリがいたから幸せだった。ユリは私の宝物。東京に来なければユリは生まれてこなかった。だからね……私の最後はあんな終わり方になってしまったけど後悔はしていない。ただ、』 田所さんはそう言うと穏やかに、それでいてまた泣き出しそうな顔でこう続けた。 『ただ、私のせいでお父さんとお母ちゃんを悲しませちゃった。親になってわかった。子供が先に死んじゃうのは、残された親はすごく辛いよね……私こそ意地にならずに頼れば良かったの。それなのに……本当にごめんなさい』 お父さんはなにか躊躇っているように見えた。 ゴツゴツと節立ったその手を宙に泳がせては引っ込めて、それを何度も繰り返してる。 『なぁ、貴子。結局はおまえを助けられなかった俺がこんな事言っていいのかはわからねぇ。でもな、おまえはユリが生まれた時「こんなにかわいい子が私の娘だなんて信じられない」って言ったよな。それは俺や母さんも同じでよ。おまえが生まれた時、俺みてぇな中卒で山の事しか知らねぇような男によ、貴子というかわいい娘ができてよ、俺ぁ、こんなに幸せでいいのかって、バチが当たるんじゃねぇかって思ったさ』 『ん……』 『小せぇ頃は身体が弱くてなぁ、しょっちゅう熱出してよぉ。そのたび生きた心地がしなかった。このまま死んじまったらどうしようってオタオタしてよ。だけど大きくなるにつれ丈夫になって元気にそこいらじゅう走り回ってなぁ。俺ぁ、おまえの成長が嬉しくて眩しくて誇らしくて……おまえは俺の宝物だ、俺のすべてだった』 『お父さん……ごめ、』
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