第二十二章 霊媒師 岡村英海

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…… ………… 泣き虫猫は黙ったまんま、涙をボタボタたらしてる。 雷神号は目を細めると、ただただ黙って自分を視上げる猫の頭を、黒い鼻で優しく撫ぜた。 そして…… 『私の為に泣いてくれるのか……? おはぎは優しいな。だが泣かなくて良いのだよ。主は私を忘れない。生まれ変わっても、今と姿が変わっても、それでも忘れない。今すぐではないけれど、必ず迎えに来てくれる』 そう言った雷神号に疑心の念は感じない。 目は穏やかで澄み切っている。 澄んだ目は小さな猫もおんなじだ。 おはぎは子供で純粋だから、”嬉しい” とか ”怖い” とか、感情が、大人よりも剥き出になる。 『……グズ……グズグズ……ら、らいちゃんは……それでいいの? 迎えに来てくれるって、主さんは言ったかもしれないけど……ニンゲンの命は動物よりもうんと長いよ、長すぎて、その間に忘れちゃうかもしれないよ、……そうなったら……らいちゃん、きっと泣いちゃうよ、』 『おはぎ……』 不安な顔はますます陰りが強くなる。 雷神号はそんなおはぎをゴツイ前足で抱き寄せた。 『私を心配してくれるのか……ありがとう。だが心配には至らない、なぜなら____』 犬の子は言いかけて、ここで一旦言葉を止めた。 猫の仔をじっと視て、少し考え、再び話を始めたのだが…… 『心配しなくて大丈夫。どうしてかって? それはね、私と主の昔からの約束だからだ。主が私に ”待て” と言ったら、なにがあっても待つのが約束。次に主が ”良し” と言うまで大人しく待つんだよ』 雷神号……言葉のチョイスがガラリと変わった。 言葉はいたってシンプルで、小さな仔でもこれならきっと分かりやすい。 『……約束……?』
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