第二十二章 霊媒師 岡村英海

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無許可で現世に来ちゃった猫は、めちゃくちゃ頑張り誤魔化そうとしたけれど(あくまでも ”おはぎ比“ です)、テンパりすぎてぜんぶバレバレ。 そんなおはぎに雷神号は耐えられず、お腹を抱えて大笑いをしたのだが、そこはやっぱり警察犬。 そこまでするには何か事情があるのだろうと、おはぎから、うまく話を聞き出してくれた。 強くて優しい雷神号に、おはぎはすっかり懐いてしまった。 どうして現世に来たかったのか、そう聞かれ、仔猫は不安な胸の内をすべて吐き出した。 人間のトウとカアが大好きだったコト。 毎日が幸せだったコト。 だけど病気で、2才で死んでしまったコト。 そして……虹の国に住み始めてうんと時間が経ってから。 時期をずらして岡村家の猫達がやってきた。 兄弟たちに初めて会った時、おはぎは跳ねて喜んだそうだ。 自分とおんなじ、トウとカアの子供達。 ひとネッコ(一人っ子)だと思っていたのに、優しい姉と兄がいて、一緒に暮らせば毎日楽しい、……楽しいんだけど、 たまに、寂しさを感じる事があったのだそうだ。 丘の上の木の家で、夜にみんなでおしゃべりする時。 大好きなトウとカアの話になる。 それぞれが、生きてた頃の思い出話をするのだけれど、おはぎだけ、思い出の数が少ない。 その理由はおはぎだって分かってる。 兄弟たちは自分よりも後に生まれたはずなのに、みんな大きい成猫で、2年で死んだおはぎと違う。 揃って全ニャン長生きで、トウとカアと長い間一緒にいれた。 だからその分、思い出が多いのだ。 言っても仕方がない、言ったら困らせる。 だから誰にも言わないで、いつか、トウとカアが迎えに来たら、そしたらそこから新しい思い出を作るんだと、……そう、思い続けてきたのだ。 それなのに……視てしまった。 大福が……いや、小雪ちゃんが、ずっと待ってた主さんに、存在ごと忘れられてしまった所を。 それからおはぎは不安になった。 不安どころのレベルじゃない、恐怖すら感じていた。 トウとカアが迎えに来ても、覚えているのは兄弟たちだけ。 自分は1匹、置いていかれるのではないかと、そう考えると怖くて不安でたまらなくって、居ても立っても居られなくなった。
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