第二十二章 霊媒師 岡村英海

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どこにでもある住宅街。 右を見ても左を見ても、似たり寄ったり建売住宅二階建て。 その中の一棟。 茶色い外壁、車庫には小型のハッチバック、玄関まわりは各種猫の置物だらけ……そう、間違いなく岡村家だ。 『着いたぞ、』 雷神号は背中に張り付く小さな猫を地に降ろす。 そして、おはぎの肩を黒い鼻で優しく押すと、 『さぁ、行っておいで。大好きな主さん達に会ってくるんだ』 そう言ってニコリと笑う。 おはぎは『……うん、うん』と口では言うけど、カチンコチンに石化しちゃって、そこから1歩も動けない。 『どうした……? 行かないのか? せっかく此処まで来たというのに』 『……ら、らいちゃん、お、おはぎ、キンチョウしてきたよ、ど、どうしよう、だいじょうぶかな、トウとカア……おはぎの事覚えてるかな、』 それが知りたくて来たというのに。 イザとなったら怖くなって尻込みしてる。 優秀な警察犬は、そんなおはぎをペロリと舐めると力を込めてこう言った。 『大丈夫。おはぎの事、主さん達はちゃんと覚えてるよ』 『そ、そうかな……そうだといいな、で、でも、怖いにゃ……だって、おはぎが死んじゃったの、うんとうんと前だもん』 おはぎはもう泣きそうで、視てる僕まで辛くなる。 『うんと前か、だが……安心していい。やっぱり忘れてなどいなかった。ん? どうしてそんなコトが分かるかって? 簡単さ。私達はココまで来れたじゃないか(・・・・・・・・・・・・)。こうして、おはぎの家を探し出せたのが証拠だよ。私は匂いを追ってきたんだ。それはおはぎも知っているだろう?』 『……しってる』 『私が此処まで来れたのは、この鼻のおかげだ。どんなに遠く離れていても対象を探し出す。犬の嗅覚は人間の100万倍から一億倍と言われてるから』 あ、おはぎのおめめがハテナマークになっちゃった。 かろうじて理解したのは、”鼻のおかげでココまで来れた” ってトコだけみたい。 『どんなに良い鼻でも、匂いがなければ(・・・・・・・)追う事は出来ない。だが来れた。それはつまりどういうコトかと言うと、家の中には、未だおはぎの物(・・・・・)があるという事だ。おはぎの形見を大事にとってあるんだよ』 うん……うん、あるよ、雷神号の言う通りだ。 岡村家の歴代の猫達の形見。 それはぜんぶ大事に大事に取ってある。
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