第二十二章 霊媒師 岡村英海

91/159
前へ
/2550ページ
次へ
『おはぎのカタミ……?』 ちっちゃな声でそう呟いて、おはぎは家と、雷神号を、何度も何度も交互に視上げる。 『そうだ、だから大丈夫。安心して行っておいで』 『……うん、…………うん! うん! おはぎ、トウとカアに会ってくる!』 俄然元気を取り戻し、瞬間、おはぎは家に向かってダッシュした、……のだが、あららどうした急停止。 猫は慌てて振り向くと、再びダッシュで雷神号の傍に来た。 『らいちゃん! らいちゃん! ありがとね、おはぎを助けてくれてありがと、話を聞いてくれてありがと、オウチまで送ってくれてありがと! いっぱいぜんぶありがと! らいちゃん大好き! 虹の国に戻ったらおはぎと遊んでくれる? ヘビごっこ一緒にしてくれる?』 ヘビごっこって例のアレだ。 何がそんなに面白いのか、僕にはちっとも分からなかった。 だけど視てると癒されちゃうヤツ。 雷神号は子供の可愛いお誘いにニコニコ笑って頷いた。 『ああ、もちろんだ。一緒に遊ぼう。その時はコンちゃんも誘わないとな。だが……すぐには遊べない。私は現世送りの犬だからね。現世(ここ)で誰かの役に立たねば虹の国に帰れないのだよ。だからしばらく、…………え……、』 え……? 雷神号と僕は、ほぼほぼ同時に ”え……?” と頭に疑問符を浮かべた。 二瞬遅れでおはぎもおんなじ。 なにが起きたか分からずに、ポカンと上を視上げてる。 これは……花吹雪……? 屈強な警察犬。 黒い毛皮に黒い鼻、茶色の瞳はどこまでも澄んでいて、強さと優しさで溢れてる。 そんな雷神号のまわりには、数えきれない花吹雪が舞っていた。 淡く光ってふわりふわりと、色は七色、虹の色。 『へにゃぁ……キレイだにゃぁ……らいちゃん、これなぁに?』 可愛いお口をぱかーんと開けて、不思議な顔でおはぎが聞いた。 雷神号は、 『…………分からない、……だけど悪い物ではなさそうだ。花びらから……虹の国の匂いがする』 そう言って鼻を僅かに動かした。 大きな犬と小さな猫が、霊体(からだ)を寄せて花吹雪を視ていると、今度は天から誰かの声が降ってきた。 【うさん……ごうさん、……んごうさん、……雷神号さん、聞こえますか?】 男性の声だ。 ゆっくりとした話し方、すごく穏やかそうだ。 声を聞いた雷神号は、顔を引き締め天を視て、そして答えた。 『聞こえます、よく聞こえますよ』 【ああ、良かった。こちらも良く聞こえます、通信良好だ。それで……と、雷神号さん。おめでとうございます! ミッションクリアです! 現世で誰かの役に立つ、着いて早々クリアですよ! すごいな、最短記録更新だ! これまでの記録は現世に行って3日で戻った犬がいたけど、それを大幅に上回るレコードだ! 虹の国に戻ってきたら表彰式がありますから、楽しみにしていてください!】 あ……そういう事か! 現世送りの動物は、誰かの役に立つ事を課せられる。 雷神号は着いて早々クリアしたって言っていたけど(てかこの声のヒト誰?)、それってさ、役に立ったってのはさ、もしかしてさ、おはぎを助けてあげたから……って事じゃないのか?
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加