2366人が本棚に入れています
本棚に追加
『おはぎのカタミ……?』
ちっちゃな声でそう呟いて、おはぎは家と、雷神号を、何度も何度も交互に視上げる。
『そうだ、だから大丈夫。安心して行っておいで』
『……うん、…………うん! うん! おはぎ、トウとカアに会ってくる!』
俄然元気を取り戻し、瞬間、おはぎは家に向かってダッシュした、……のだが、あららどうした急停止。
猫は慌てて振り向くと、再びダッシュで雷神号の傍に来た。
『らいちゃん! らいちゃん! ありがとね、おはぎを助けてくれてありがと、話を聞いてくれてありがと、オウチまで送ってくれてありがと! いっぱいぜんぶありがと! らいちゃん大好き! 虹の国に戻ったらおはぎと遊んでくれる? ヘビごっこ一緒にしてくれる?』
ヘビごっこって例のアレだ。
何がそんなに面白いのか、僕にはちっとも分からなかった。
だけど視てると癒されちゃうヤツ。
雷神号は子供の可愛いお誘いにニコニコ笑って頷いた。
『ああ、もちろんだ。一緒に遊ぼう。その時はコンちゃんも誘わないとな。だが……すぐには遊べない。私は現世送りの犬だからね。現世で誰かの役に立たねば虹の国に帰れないのだよ。だからしばらく、…………え……、』
え……?
雷神号と僕は、ほぼほぼ同時に ”え……?” と頭に疑問符を浮かべた。
二瞬遅れでおはぎもおんなじ。
なにが起きたか分からずに、ポカンと上を視上げてる。
これは……花吹雪……?
屈強な警察犬。
黒い毛皮に黒い鼻、茶色の瞳はどこまでも澄んでいて、強さと優しさで溢れてる。
そんな雷神号のまわりには、数えきれない花吹雪が舞っていた。
淡く光ってふわりふわりと、色は七色、虹の色。
『へにゃぁ……キレイだにゃぁ……らいちゃん、これなぁに?』
可愛いお口をぱかーんと開けて、不思議な顔でおはぎが聞いた。
雷神号は、
『…………分からない、……だけど悪い物ではなさそうだ。花びらから……虹の国の匂いがする』
そう言って鼻を僅かに動かした。
大きな犬と小さな猫が、霊体を寄せて花吹雪を視ていると、今度は天から誰かの声が降ってきた。
【うさん……ごうさん、……んごうさん、……雷神号さん、聞こえますか?】
男性の声だ。
ゆっくりとした話し方、すごく穏やかそうだ。
声を聞いた雷神号は、顔を引き締め天を視て、そして答えた。
『聞こえます、よく聞こえますよ』
【ああ、良かった。こちらも良く聞こえます、通信良好だ。それで……と、雷神号さん。おめでとうございます! ミッションクリアです! 現世で誰かの役に立つ、着いて早々クリアですよ! すごいな、最短記録更新だ! これまでの記録は現世に行って3日で戻った犬がいたけど、それを大幅に上回るレコードだ! 虹の国に戻ってきたら表彰式がありますから、楽しみにしていてください!】
あ……そういう事か!
現世送りの動物は、誰かの役に立つ事を課せられる。
雷神号は着いて早々クリアしたって言っていたけど(てかこの声のヒト誰?)、それってさ、役に立ったってのはさ、もしかしてさ、おはぎを助けてあげたから……って事じゃないのか?
最初のコメントを投稿しよう!