第六章 霊媒師OJT-2

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『ああ、違うんだ。おまえを責めてるんじゃねぇ。なぁ貴子、思い出してくれ。あの頃確かに俺達家族は幸せだった。優しくて働き者の母さんと良い子に育ったおまえがいて、俺は安心して山に行けた、これで母さんと貴子にうまいもん食わせてやれる、好きな物を買ってやれる、そう思うと働くのが楽しくて仕方なかった。毎日が本当に幸せだった。その後……辛い事はたくさんあったけどよ、それでも……あの幸せだった頃が消えてなくなる訳じゃねぇ。貴子だって好きで先に死んだんじゃねぇ。助けに行けなかった俺が悪いんであってお前が気に病む事じゃねぇ、』 お父さんはそこまで言うと、意を決したように拳を握り田所さんの顔の前に突き出した。 そしてその拳をおずおずと開き娘の頭に乗せるとワシャワシャとかきまわし言った。 『よく頑張ったなぁ……ユリを……ユリを守ってくれてありがとうなぁ……』 ユリちゃんのお爺ちゃんではなく貴子さんの父親に戻ったその優しい顔に、同じく娘の顔に戻った田所さんが、体当たりの勢いで父の胸にぶつかると声を上げて泣いた。 『お、お父さん、ごめ、ごめんね……! 私こそ、ユリを……育ててくれて、守ってくれてありがとう、ありがとう、うぅ……う……うわぁ……! お父さん! お父さん! 会いたかったよぉ……!』 お父さんは両手を上げて、自身の胸で泣きじゃくる田所さんを見下ろして固まっている。 が、やがて顔を歪め涙を流し、恐る恐る……壊れ物を扱うようにそっと両手をおろし交差させ、それはもう大事そうに娘を腕に抱きとめた。 『貴子ぉ! 俺も……お父さんも会いたかった……! やっと会えた! やっと、やっと……!』
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