第二十二章 霊媒師 岡村英海

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【………………分かった。おはぎがそこまで言うのなら、よほどの事情があるんでしょう。だけど一つだけ聞かせて。そこは(・・・)安全なの? 現世は虹の国とは違うから心配なのよ】 言ったのはサンだ。 3度目のフシャーはなくて、おはぎの安全が気になるみたい。 これに答えたのは雷神号だった。 『その点は大丈夫。おはぎにとってこれ以上安全な場所はない』 うん、その通り。 だって岡村家(ここ)は猫達みんなの実家だもん。 絶対的に安全だ。 それならとサンは承諾(渋々感は否めないが)。 あとは虹の国がなんて言うかなんだけど____ ____それから、 なんやかんやと現世と虹で話し合い、おはぎは特別、もう少しだけ現世(こっち)にいられる許可を得た。 んで、これも特別、今回おはぎにお咎めはないみたい(良かったー!)。 天から聞こえる謎の声。 この男性は虹の国の役人さんで、動物達の各種手続、設備の管理に迎えに来た主さん達の対応と、あらゆる仕事を任されているらしい(あーだこーだと話してるのを聞いて推測した)…………のだが、数ある仕事のひとつには、動物の現世送りも含まれているとのコト。 3日前、雷神号の現世送りもこの役人さんが担当したと言うのだが…… 【いやー、まさかねぇ、おはぎさんが紛れ込むとは想像すらしてなくて。ははは、明らかに私のミスです。確認が足りませんでした。なのでおはぎさんに罪はありません。もっとも……私よりサンさんのお仕置きの方がコワソウ……いや、ゲフンゲフン、なんでもありません】 お咎めなしと聞いた途端、猫達は安堵の溜息をついた。 息を吐いた数秒後。 なんでもかんでも大騒ぎのトラの仔達が騒ぐ中、サンの声が再び天から降ってきた。 【いい? 今回は特別なんだからね。帰ってきたら何がどうしてこうなったのか、ぜんぶ話してもらうわよ、いいわね! それと……おはぎ、よく聞いてちょうだい。これからは黙ってどこかに行ったりしないで、心配させないで。あんたは大事な妹なの、家族なの。私達全ニャン、トウとカアの子供なの。1匹も欠けたらダメなのよ、】 怒ると怖いカア代行。 サンの声が微かに震えて寂しそうで、聞いたおはぎは『サン……ごめんね、ごめんね、ちゃんと話すからね、』とボロ泣きだった。 そしてココで…………残念ながら雷神号とは一旦お別れ。 ミッションクリアの警察犬は、虹の国へ戻る事になってしまった。 ゆるく舞ってた花吹雪に加速がついた。 花弁は柔らかく速度を持って、円を描いて雷神号を包み込む。 小さなおはぎは飛ばされそうで、四肢を地に着け一生懸命踏ん張っていた。 さらに加速。 虹色の花吹雪は色が溶けだし、雷神号の輪郭をかすめてく。 『おはぎ……! おはぎ聞こえるか!? いいか、大丈夫だ! 頑張れ、勇気を持って会いに行け!』 低い声がおはぎを励ます。 『らいちゃん! らいちゃん! おはぎ、頑張る! ありがとね、ありがとね』   目をつむり、声を大におはぎが叫ぶ。 風が強くて言葉は流れ、やがて、犬の姿は完全に……消え去ったのだ。
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