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すたすた歩く母さんの、その足元では小さなおはぎが横につく。
野球選手がフライの球を追うように、視上げて必死に走ってる。
『カア、待って、カア! 行か、ないで、ここに、いて、おはぎの、傍に、いて!』
走りながら喋っているから、声が揺れて切れ切れだ、……って、ああ、途切れる理由はそれだけじゃないか、おはぎ……泣いちゃったよ。
大きな目から涙がボロボロ。
気づいてもらえず悲しくて、寂しくて、焦ってしまって、そういうのが涙になって流れてるんだ。
トートバックに財布を入れて、それを肩に引っ掛けた。
買い物行くって言ってたし、行き先はたぶん近所のスーパーだ。
母さんは、おはぎがいるのも知らないで、出掛けようと間仕切りドアを開けたそこには、
「ほにゃぁん」
生きてる猫のきなこがいたんだ。
茶々丸みたいな茶色ベースのトラ模様。
フワフワ毛皮はツヤツヤで、動きはのんびりオットリ猫だ。
大きなお口であくびをしながら母さんを見上げてる。
「あらぁ、きなちゃんお昼寝終わり? よく寝たわねぇ、いっぱい寝てエライわぁ」
きなこの顔を見た途端、母さんは膝を着いて頭を撫ぜた。
そっと優しく毛並みに沿って、ナデナデナデナデ。
人差し指でピンクのオハナをちょんとして、背中から尻尾の先まで何度も何度もナデナデナデナデ。
されるきなこもまんざらでもなく、気持ちよさげにゴロゴロ喉を鳴らしてる。
母さんは、そんなきなこにメロメロ状態。
愛情がマックスゲージを振り切って、
「あらぁ……あらぁ……ゴロゴロいっちゃって……もう……もう……! きゃー! きなこカワイイ! 天使! 世界イチだわぁ!」
と、やっぱり僕らは親子だな、と思わざるを得ない褒め方をした。
いつもだったら、僕はきっと笑ってしまうと思うんだ。
なにもさ、こんなトコまで似なくても、なんてさ。
だけど今は笑えない、だって……だって、
『………………へにゃ……カア……その子、誰にゃ……?』
おはぎがそれを呆然と視てたから。
「きなこ、いっぱい寝たから喉が渇いたんじゃないの? お水飲もうか。カアが今、新しいの汲んであげる。待ってて」
ほにゃぁん、きなこは嬉しそうに一声鳴いた。
なんで……、 おはぎは消え入りそうな声で言った。
きなこ専用のマグカップ、母さんは古いお水を流しに捨てて、新しいのと取り替える。
「コッチにおいで、お水おいしいよ」
優しい声だ。
ニコニコ笑って愛しげに、茶トラのきなこを呼んでいる。
欲しくて欲しくてたまらない、カアからの優しい言葉は、おはぎをすり抜け全てきなこに向かってて……
『……カア……おはぎもお水が飲みたいよ……おはぎも喉が乾いたよ……』
おはぎは俯き霊体を震わせ声も震わせ耳はペタリと横に倒れて………………駄目だ、辛い、気持ちを思うと泣けてくる。
「たくさんお水飲んでねぇ。よく寝てよく食べてよく飲んで、元気で長生きしてちょうだい。きなこ、大好きよ」
____大好き、
母さんのこの一言を聞いた瞬間、おはぎはサイレンみたいに泣き出した。
自分だってカアの子なのに、どうして視えないの? どうして声が聞こえないの? どうして? どうして? どうして!?
震える四肢で踏ん張って、泣いて泣いて叫んで叫んで____
____その時だった。
なんの前触れもなく、突然、
ビキッッッ!!!
地震のような揺れが起きたのだ。
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