第二十二章 霊媒師 岡村英海

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揺れは……すぐにおさまったけど、今のはなんだったんだ……? 地震にしては一瞬すぎだが、家鳴りにしては揺れも、音も、激しかった。 「やだ……地震かしら、」 不安な顔でそう呟いた、母さんの腕の中にはきなこがいた。 揺れに驚き咄嗟に抱え上げたのだ。 イザとなったら財布よりも通帳よりも、もっと大事な猫を連れて逃げる為、だ。 おはぎは……そんな1人と1匹の様子を呆然と眺めていた。 今はもう泣いてはない、……が、泣き止んだとというよりは、さっきの揺れにおはぎも驚き怖くなり、それで涙が止まったみたいだ。 「そうだ、テレビ」 生きた茶トラを抱えたまんま、母さんはさっき消したテレビをつけた。 昼間の時間のワイドショーでは、エプロン姿の芸能人が、包丁片手に料理をしてる。 時間にしたら5分くらい、母さんはジッと画面を見つめていたけど…… 「地震速報でないわね……という事は、さっきのは地震じゃないのかしら……まぁ、この家も古いから、それで軋んだのかもしれないわ。…………とりあえず、大丈夫そうね。じゃあそろそろ買い物に行きますか。きなこ、おんりしよ。カアは買い物に行ってくるから良い子で待っててね」 言いながらきなこを降ろしてナデナデすると、母さんはスーパーへと出かけていった。 きなこはきなこで、あくびをしながらリビングを後にする(たぶんまた2階に行って昼寝の続きをするのだと予想)。 リビングに残っているのは、サビ色仔猫ただ1匹だ。 猫は……萎れるように肩を落としていた。 泣く事も叫ぶ事もせず、声も出さずに俯いて、力弱くまわりを視てからトボトボと歩きだす。 一体どこに行くと言うのだろう。 小さな背中を目で追えば、おはぎは壁際、テレビの後ろに入り込み霊体(からだ)を丸めて小さくなった。 なんだってこんな所に……そこは影になってて乱雑で、テレビとかDVDとか、たくさんの機器のコードが束ねられ、埃もたくさん溜まってる。 あんまりキレイじゃない場所なのに、猫はキレイ好きなのに……それでもここで小さくなって目を閉じたんだ。 そして、 『少しつかれたにゃ……』 かすれた声でそういうと、おはぎはそのまま眠ってしまった。 僕は、そんなおはぎを切ない想いで上から視ていた。 大福よりも小さくて、肩も華奢でいかにも仔猫なサビ猫だ。 こんな汚いはじっこで、隠れるように眠るおはぎは今……とてつもない孤独を感じてるんじゃないのかな……
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