第二十二章 霊媒師 岡村英海

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それから……夜まで眠り続けたおはぎは、もう1人の大好きな人、そう、父さんの声で目が覚めた。 「ただいまぁ、今日は疲れたよ。部長は怒ってばっかだし、部下は文句ばっかだし、はぁ……中間管理職は板挟みでやんなっちゃう」 帰って早々ぼやく父さん、……って、これはいつものコトだけど、この声におはぎはガバッと飛び起きた。 『トウの声だ! カイシャから帰ってきたんだ!』 シャカシャカシャカ!  なんて、そんな音が聞こえてきそうな勢いで、テレビ裏から飛び出たおはぎは、嬉々としてまとわりついた。 『トウ! トウ! おはぎだよ! おはぎが来たよ! おはぎのコト覚えてる!? おはぎのコト視える!?』 あ、既視感。 さっきとほぼほぼおんなじだ。 おはぎにとって、会いたくて甘えたくてたまらなかった人(2人目)に四肢を広げて飛び付いた……が、スルンとすり抜け、やはりそれは叶わなかった。 『……なんで……? なんで……?』 床に突っ伏しスライム状態。 疑問符をダーズで頭に浮かべるおはぎは……悔しそうに独り言ちていた。 ”なんで?” ……か、そうだよね、そう思うよね。 こんなに近くにいるというのに、父さん達は気づいてくれない。 おはぎからは視えるのに、声だって聞こえるのに、その逆はダメなんだ。 これが……死者と生者の壁なんだな。 霊媒師をしていると、その壁が曖昧になりがちだ。 僕は特にそうかもしれない。 本来は、霊力(ちから)がなければ霊の姿は視えないし、声だって聞こえない。 霊がどんなに望んでも、”ここにいるよ” と伝える事すら難しいのだ。 おはぎは、きっとそういうの知らないのだろうな。 だってこの子は小さな子供で、ましてや猫だ。 知らなくて当たり前、……そうなんだけど、視てると辛くて切なくなるよ。 『なんで……? なんでにゃあ……?』 ああ……かわいそうに……あとで僕がなんとかするから、もう少しの辛抱だから、おはぎは霊で、父さん達は生人(いきびと)で、だから仕方がないんだよ。
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