第二十二章 霊媒師 岡村英海

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僕の目の前。 ペタッと伏せてるサビ猫は、悲しみがこみあげたのか、右前足をタシタシ床に打ちつけて『なんで? なんで?』と繰り返していた。 『(タシタシ……)なんで……? (タシタシタシ……!)なんでにゃあ……? (タシタシタシタシタシ!)  なんでぇ……!?』 お、おはぎ……落ち着いて、悲しい気持ちは分かるけど、そんなにしないで、アンヨが痛くなっちゃうから、ね、おねがい……! 半泣きで願ったものの、おはぎはさらに床を打つ。 『(タシタシタシダシダシダシダンダンダンダンッ!)うぬぬぬぬ……!』 ご、ごめんよ、こればっかりは仕方がないの、だっておはぎは幽霊ねk、 『ぬぬぬぬぬ……! やっぱし変だにゃ! なんでにゃ! なんで床には座れるのに! トウとカアはすり抜けるのにゃー!』 あぅぅぅ! だからそれはおはぎが幽霊猫だから、それで、……ん? ……んん? 床には座れるのに? んんんー? あ……うん、……あれ? そう言えばそうだね、あれれ? ……なんでだろ? おはぎのシャウトにハタとする。 そんなん、考えたコトがなかったよ。 確かにおはぎの言う通り。 猫は今、床の上で盛大に癇癪中(少し眠って元気になったみたい、良かった)。 てか思い起こせばユリちゃんママに廃病院の大澤家、、神奈川のオタクチームもマジョリカさんも、みんな、地面や床に普通に立ってた。 物とか生者はすり抜けるのに……なんで? 座学では習わなかったし、先代からも聞いてない。 これは今度聞くしかないな。 『へんにゃーっ! トウとカアにさわりたいにゃー! 抱っこしてほしーにゃー! (ダンダンダンダンダン!!)へにゃにゃにゃにゃ』←変なテンションになってる。 あ、マズイ。 おはぎが興奮しすぎてる、このままだと吐いちゃうかもしれないよ(猫は健康でもすぐに吐くからね)。 ダンダンダンダン、癇癪猫は吐く勢いで床を打ち、僕の耳から大きな打音が入り込み、頭の中で暴れてる。 ちょ、おはぎさん、気持ちは分かる、分かるんだけどココはひとつ落ち着いていただいて……なんて、そんなコトを思っていた時、そう、そんな時だった。 父さんと母さんが、立ったままで顔を見合わせ、不気味そうにこう言ったんだ。 「めぐちゃん……さっきから変な音してない?」 えぇっ!? めぐちゃん!? 今、めぐちゃんって呼んだ!?(母さんの名前はめぐみ) 僕がいないと ”めぐちゃん” 呼びなの!? 「した……したよ……私の気のせいじゃなかったのね……ひろくんも聞こえたんだ……」 おっふぅ! 今度はひろくん!? 今ひろくんって呼んだよねぇ!?(父さんの名前は大海(ひろみ)) なに? そうなの? 2人はいまだ名前呼びなの!? 僕の前じゃ ”父さん” と ”母さん” って呼んでるのに! 衝撃だった。 いや、もちろん仲の良いのが一番だけど、なんていうのか普段のギャップというか……ねぇ。 あまりにも驚いて、それゆえに、肝心な事をスルーしそうになってしまった。   今さっき、父さん達は言っていた。 変な音が聞こえると。 その音ってもしかして……おはぎの癇癪床ダンダンが聞こえたのか……?
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