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僕の目の前。
ペタッと伏せてるサビ猫は、悲しみがこみあげたのか、右前足をタシタシ床に打ちつけて『なんで? なんで?』と繰り返していた。
『(タシタシ……)なんで……? (タシタシタシ……!)なんでにゃあ……? (タシタシタシタシタシ!) なんでぇ……!?』
お、おはぎ……落ち着いて、悲しい気持ちは分かるけど、そんなにしないで、アンヨが痛くなっちゃうから、ね、おねがい……!
半泣きで願ったものの、おはぎはさらに床を打つ。
『(タシタシタシダシダシダシダンダンダンダンッ!)うぬぬぬぬ……!』
ご、ごめんよ、こればっかりは仕方がないの、だっておはぎは幽霊ねk、
『ぬぬぬぬぬ……! やっぱし変だにゃ! なんでにゃ! なんで床には座れるのに! トウとカアはすり抜けるのにゃー!』
あぅぅぅ!
だからそれはおはぎが幽霊猫だから、それで、……ん? ……んん? 床には座れるのに? んんんー? あ……うん、……あれ? そう言えばそうだね、あれれ? ……なんでだろ?
おはぎのシャウトにハタとする。
そんなん、考えたコトがなかったよ。
確かにおはぎの言う通り。
猫は今、床の上で盛大に癇癪中(少し眠って元気になったみたい、良かった)。
てか思い起こせばユリちゃんママに廃病院の大澤家、、神奈川のオタクチームもマジョリカさんも、みんな、地面や床に普通に立ってた。
物とか生者はすり抜けるのに……なんで?
座学では習わなかったし、先代からも聞いてない。
これは今度聞くしかないな。
『へんにゃーっ! トウとカアにさわりたいにゃー! 抱っこしてほしーにゃー! (ダンダンダンダンダン!!)へにゃにゃにゃにゃ』←変なテンションになってる。
あ、マズイ。
おはぎが興奮しすぎてる、このままだと吐いちゃうかもしれないよ(猫は健康でもすぐに吐くからね)。
ダンダンダンダン、癇癪猫は吐く勢いで床を打ち、僕の耳から大きな打音が入り込み、頭の中で暴れてる。
ちょ、おはぎさん、気持ちは分かる、分かるんだけどココはひとつ落ち着いていただいて……なんて、そんなコトを思っていた時、そう、そんな時だった。
父さんと母さんが、立ったままで顔を見合わせ、不気味そうにこう言ったんだ。
「めぐちゃん……さっきから変な音してない?」
えぇっ!? めぐちゃん!? 今、めぐちゃんって呼んだ!?(母さんの名前はめぐみ)
僕がいないと ”めぐちゃん” 呼びなの!?
「した……したよ……私の気のせいじゃなかったのね……ひろくんも聞こえたんだ……」
おっふぅ! 今度はひろくん!? 今ひろくんって呼んだよねぇ!?(父さんの名前は大海)
なに? そうなの? 2人はいまだ名前呼びなの!?
僕の前じゃ ”父さん” と ”母さん” って呼んでるのに!
衝撃だった。
いや、もちろん仲の良いのが一番だけど、なんていうのか普段のギャップというか……ねぇ。
あまりにも驚いて、それゆえに、肝心な事をスルーしそうになってしまった。
今さっき、父さん達は言っていた。
変な音が聞こえると。
その音ってもしかして……おはぎの癇癪床ダンダンが聞こえたのか……?
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