第二十二章 霊媒師 岡村英海

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あはは、しっかし豪快な味見だったなぁ。 毛繕いをする時みたいに、手とか顔とかペロリと舐めたらそれで済むのに、なんでワザワザ頭っから食べるかな。 本当にびっくり、ヒトクイネコかと思ったよ。 ま、でもいいんだ。 今となっては笑えるし、なんてったって味見のおかげで僕が ”ヒデミ” と分かってくれた。 そだよ、あの後おはぎは僕の名前を呼んだじゃない。 ____ひにゃ……ひ……ひ……ひ……ひでみっ! って。 名前呼んでくれたの……嬉しかったなぁ。 呼んだ後は疲れてしまって、そのままスヨスヨ寝ちゃってさ。 あんなに上手に言えるだなんて、おはぎ、きっといっぱい練習したんだろうな。 いつかの未来、父さん達が迎えに来たら驚かそうとたくらんだのかも。 イタズラ仔猫が考えそうなコトだ。 そう思ったら可笑しくて、だから、さっきみたいに笑おうとして、なのになんでか逆さまで、じんわり涙が出てきてさ、……変なの、どうして泣きたくなるんだろう。 目の前には過去の世界の(・・・・・・)おはぎと大福。 可愛いくて優しくて弱くて強い、僕の大事な猫達だ。 2匹は仲良く毛繕いなんぞしちゃってさ、まったくもってケシカラン。 視ているだけで幸せになっちゃうよ。 愛しさが込み上げて、大好きが溢れちゃって、どうしようもなく____ ____ああそうか、 なんで泣きたくなるのか、その理由が分かったよ。 今流してるこの涙、これは愛情なんだ。 2匹が愛しく胸いっぱいになっちゃって、入りきらないはみ出た分が涙になって流れてるんだ。 そか、そうか、そうと分かればこうしちゃあいられない。 はやる気持ちをなんとか抑えて霊視解除の言霊を唱えた。 そこから数秒、目の前のキュートな2匹がフェードアウトで徐々に消え、代わり、フェードインでやっぱりキュートなリアルの2匹が現れた。 …… ………… 初霊視にして長丁場。 生身の僕は、父さんのベッドの上で仰向けに寝転んでいた。 アイタタ……身体が痛い、腰も肩もバキバキだ……って、そりゃそうだろう。 仰向けの僕の胸には2匹の猫が、さも当然と言わんばかりに乗っかり眠っていた。 すよすよ……くっかぁー ←おはぎの寝息。 ふぐふご……ぷっすー ←大福の寝息。 「重た、」 僕は首だけグィッと上げて、呑気に寝ているユーレー猫をジッと視て、そして、両手でもってギュウッと強く抱きしめると…… 『うなぁ……?(ボヤァ)』 『へにゃぁ……?(ポワァ)』 2匹は同時に目を覚まし、だけどすぐに二度寝した。 あはは、カワイイ。 やっぱり本物は違うな。 帰ってきた、2匹の元に帰ってきたんだ。 これで事情はすべてわかった。 愛しい愛しい仔猫のおはぎ、このあとは僕にぜんぶ任せてね。
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