第二十二章 霊媒師 岡村英海

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◆ PM23:57 夜も更けて、そろそろ日付が変わろうとしている。 この数時間、霊視を通してすべての事情が分かった僕は、おはぎを連れて1階(した)へ行こうとしたのだが……すぐにという訳にはいかなかった。 「おはぎ、今から父さん達に会いに行こう。ん? そうだよ、会いに行くんだ。え? すぐに変身するから待っててだって? ううん、もう巨大化しなくて良いんだよ、おはぎはおはぎのまんまでいいの。心配しないで、今度は気づいてくれる。気付くだけじゃない、お話だって出来るからね。ん? そんなの信じられないって? あはは、大丈夫。信じて、その為に僕がいるんだ。正確には僕と大福だけどね」 僕がおはぎにそう言うと、カワイイおめめをキラキラさせて『へにゃ! へにゃ!』とはしゃぎだす。 あぁ……こんなに喜んじゃって……そうだよね、ここまで来るのにたくさん苦労をしたんだもの、そりゃ嬉しいよね。 よしっ! 僕、頑張っちゃう! 今すぐ1階(した)に行こう! 最高の再会にするんだからねっ! さっそく仔猫を抱きかかえ、お姫も一緒に部屋を出ようとしたのだが…… 『へ、へにゃ!』 突如おはぎはむずがって、小さな霊体(からだ)をジタバタさせると、僕の腕から液体みたいにニュルンと抜け出し、ターーッと走ってベッドの上に飛び乗った。 そして何を思ったか、んべんべと一心不乱に毛繕いをし始めたのだ。 「えっと……おはぎさん? いきなりどうしたの? 毛繕いならいつでも出来るじゃない。なんでこのタイミング? あ、もしかして緊張してきちゃった? 心の準備が必要かな? かな?」 可愛い猫め、なんてコトを考えながら、必死すぎる毛繕いを眺めていると、隣で視ていた大福が同じくベッドに飛び乗って、おはぎの毛皮を優しくザリザリし始めた。 や、やだ……! この2匹、激カワイイんですけど……! くどいようだが視ているだけで癒される、幸せになる、さりげなく僕の手を近くに置けば、ペロリとひと舐め毛繕いをしてくれた(ショボイ指毛だけど)。 『うなな、(ザーリザーリ)』 『へ、へにゃ……! へにゃにゃ(んべんべんべ)』 おはぎと姫は言葉短く会話を交わし、あとはひたすら毛繕い。 てか、おはぎったら毛並みを無視してんべんべと舐めるから、パヤパヤ毛皮が逆立っちゃってクチャクチャだ。 そのクチャクチャを大福がキレイに揃えて整えて、最終的にはツヤツヤピカピカ、おはぎはすっごい美ニャンになった。 『へ、へにゃあ? へにゃへにゃへにゃ……!』 心配そうな上目遣い。 気弱な顔で、おはぎは僕に何かを言ってる。 何を言ってるんだろう? さっきまで、霊視を通せばおはぎのコトバは人の言葉に変換されてた。 それに慣れてしまった僕は、焦ってしまって瞬時に理解が出来なかった、……が、こんなに必死に話してるんだ、なんとしてでも理解をしなくちゃ。 落ち着いて良く聞いて、普段の僕は猫のコトバが分かるじゃない。 100%じゃないかもだけど、8割9割理解が出来る、意思疎通が出来るんだ。 集中して、おはぎのコトバを耳じゃなくてココロで聞くんだ。 そうすれば、いつもみたいに分かるはず…… 『へにゃぁ? へにゃにゃ? へにゃぁ? へにゃにゃにゃ、』 …… ………… ………………おかしくないかにょ……? おはぎ、変じゃない? 毛皮、汚れてない? トウとカアに会えるんだもん、 キレイにして会いたいの、 カワイイねって言われたいのにゃ、 ああ……おはぎはそんな事を思っていたのか。 そうか……うん、だいじょうぶ、すごくツヤツヤ、すごくカワイイ。 だいじょうぶ、ダイジョウブ、世界で一番可愛いよ。
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