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僕の胸で小さな猫が爪を立ててしがみ付く。
四肢を広げて張り付いて、霊体をプルプル震わせている。
可愛いオハナを僕の胸に押し付けて、だけどお耳は後ろに向けて、父さん達が話すたびにピクリピクリと動かして……おはぎ、相当緊張してるな。
この3週間、大きな音をたくさん鳴らして ”ココにいるよ” と訴えたけど、父さん達に気付いてもらう事は出来なかった。
寂しかっただろうな……辛かっただろうな、それでもおはぎは挫けずに、イチニャンぽっちで頑張ってきたのだ。
僕はさ、今日この現場の担当になれて良かったと思うよ。
おはぎは大事な家族だもの。
他の誰かじゃなくってさ、僕と大福で助けたい。
「2人とも____いいかな、」
そう声をかけると、両親は揃って僕を見た。
それまでは……大福ときなこ、その両方とワチャワチャしながらはしゃいでたのに、察するものがあったのかスッと真面目な顔になる。
「今からぜんぶ話すよ。この家で起きていた怪現象……その真相を。謎の音は誰が鳴らしていたのか、目的はなんだったのか、そういうのぜんぶ、」
ここで一旦話を止めて、大福に目配せすると『うな』と短く頷いた。
大福……いつもありがとね、助けてくれてありがとね。
今回、姫の妖力が不可欠なんだ。
その妖力がみんなを救う、おはぎと、それから父さんと母さんも。
僕はおはぎを抱きながら、テーブルをグルッと回って両親のそばに移動した。
その間、震える仔猫の背中をさする。
もうちょっと、あとちょっと、おはぎ待ってて、あと少しだけ。
父さんと母さんと、おはぎを張り付けた僕。
三角形に座った僕らの真ん中に、ドチドチ歩いて大福がやってきた。
お得な三尾を右に左に優雅にふって『うなな』となんだかゴキゲンだ。
「大福ちゃん、ふふふ……どうしたの? すごく楽しそうだわぁ」
母さんこそが楽しそうにそう聞くと、大福は『うなぁん』と一声可愛く鳴いて、三尾の1本、それをゆっくり目の前に差し出した。
「母さん、大福の尻尾にさわって。大丈夫、嫌がったりしないから。あ、ちょっと冷たいけどビックリしないでね」
僕がそう言うと、母さんは待ってましたと言わんばかりに、そっと優しく尻尾を掴み、「きゃー! フワフワ! 冷たっ! 幸せ!」と大はしゃぎだ。
それを横で羨ましそうに見ていた父さん、彼の前にも1本尻尾が差し出され、「と、父さんもさわっていいの?」と子供みたいに聞いてきて、僕がそれに頷くと、「本当だ! フワフワ! ひんやり! サイコー!」と、母さん超えではしゃいでる。
よし、2人とも姫の尻尾を掴んだな。
これで準備はオッケーだ。
あとは……最後の1本、これをおはぎが掴んでやれば、生者と死者は妖力によって繋がる事が出来るんだ。
それはすなわち、霊力を持たない父さん達の、その目に死者を映し出す。
そう、おはぎの姿が目に視えるようになるのだ。
「……さぁ、さっき言った通りに、大福の尻尾を掴むんだ」
張り付く仔猫にそう言うと、
『へ……へにゃ……へにゃ…………へにゃ……!』
おはぎは爪を引っ込めて、僕の胸からピョンッと降りた。
そしてテテテと、姫の尻尾に近付いて、斑模様のおはぎの尻尾で、クルンと絡めて結ぶみたいに今しっかりと……掴んだ!
直後、眩い光がおはぎの霊体を包み込んだのだ。
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