第二十二章 霊媒師 岡村英海

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僕の胸で小さな猫が爪を立ててしがみ付く。 四肢を広げて張り付いて、霊体(からだ)をプルプル震わせている。 可愛いオハナを僕の胸に押し付けて、だけどお耳は後ろに向けて、父さん達が話すたびにピクリピクリと動かして……おはぎ、相当緊張してるな。 この3週間、大きな音をたくさん鳴らして ”ココにいるよ” と訴えたけど、父さん達に気付いてもらう事は出来なかった。 寂しかっただろうな……辛かっただろうな、それでもおはぎは挫けずに、イチニャンぽっちで頑張ってきたのだ。 僕はさ、今日この現場(・・・・)の担当になれて良かったと思うよ。 おはぎは大事な家族だもの。 他の誰かじゃなくってさ、僕と大福で助けたい。 「2人とも____いいかな、」 そう声をかけると、両親(ふたり)は揃って僕を見た。 それまでは……大福ときなこ、その両方とワチャワチャしながらはしゃいでたのに、察するものがあったのかスッと真面目な顔になる。 「今からぜんぶ話すよ。この家で起きていた怪現象……その真相を。謎の音は誰が鳴らしていたのか、目的はなんだったのか、そういうのぜんぶ、」 ここで一旦話を止めて、大福に目配せすると『うな』と短く頷いた。 大福……いつもありがとね、助けてくれてありがとね。 今回、姫の妖力(ちから)が不可欠なんだ。 その妖力(ちから)がみんなを救う、おはぎと、それから父さんと母さんも。 僕はおはぎを抱きながら、テーブルをグルッと回って両親(ふたり)のそばに移動した。 その間、震える仔猫の背中をさする。 もうちょっと、あとちょっと、おはぎ待ってて、あと少しだけ。 父さんと母さんと、おはぎを張り付けた僕。 三角形に座った僕らの真ん中に、ドチドチ歩いて大福がやってきた。 お得な三尾を右に左に優雅にふって『うなな』となんだかゴキゲンだ。 「大福ちゃん、ふふふ……どうしたの? すごく楽しそうだわぁ」 母さんこそが楽しそうにそう聞くと、大福は『うなぁん』と一声可愛く鳴いて、三尾の1本、それをゆっくり目の前に差し出した。 「母さん、大福の尻尾にさわって。大丈夫、嫌がったりしないから。あ、ちょっと冷たいけどビックリしないでね」 僕がそう言うと、母さんは待ってましたと言わんばかりに、そっと優しく尻尾を掴み、「きゃー! フワフワ! 冷たっ! 幸せ!」と大はしゃぎだ。 それを横で羨ましそうに見ていた父さん、彼の前にも1本尻尾が差し出され、「と、父さんもさわっていいの?」と子供みたいに聞いてきて、僕がそれに頷くと、「本当だ! フワフワ! ひんやり! サイコー!」と、母さん超えではしゃいでる。 よし、2人とも姫の尻尾を掴んだな。 これで準備はオッケーだ。 あとは……最後の1本、これをおはぎが掴んでやれば、生者と死者は妖力(ちから)によって繋がる事が出来るんだ。 それはすなわち、霊力(ちから)を持たない父さん達の、その目に死者を映し出す。 そう、おはぎの姿が目に視えるようになるのだ。 「……さぁ、さっき言った通りに、大福の尻尾を掴むんだ」 張り付く仔猫にそう言うと、 『へ……へにゃ……へにゃ…………へにゃ……!』 おはぎは爪を引っ込めて、僕の胸からピョンッと降りた。 そしてテテテと、姫の尻尾に近付いて、斑模様のおはぎの尻尾で、クルンと絡めて結ぶみたいに今しっかりと……掴んだ! 直後、眩い光がおはぎの霊体(からだ)を包み込んだのだ。
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