第二十二章 霊媒師 岡村英海

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「……おはぎ、……おはぎ、」 顔を歪ませ嗚咽を漏らし、父さん達は揃って何度も名前を呼んだ。 呼ぶたび涙が溢れ出し、ボタボタボタボタ、雨のように降り続く。 おはぎは最初、2人の涙に大いに慌てて一生懸命頬を舐め、だけどそれが追いつかないと分かったみたいで、だから、今度は、その雨を浴びようと、その愛を浴びようと、雫の真下に霊体(からだ)を置いた。 黒と橙、少し白。 斑模様の小さな霊体(からだ)。 おはぎの頭、おはぎのお耳、おはぎのほっぺにおはぎのオハナ、視上げる金目は飴玉みたいにキラキラで、おはぎのすべてに愛の雫が降りそそぐ。 そして、降るのは涙だけではないようで____ ____おはぎ………… 流れる涙を拭いもせずに、母さんが小さな猫の名前を呼んだ。 呼ばれた猫は『へにゃ』とすぐに返事をすると、続く言葉を待っていた。 「おはぎ……おはぎ、……あんただったの……今までの……おっきな音も、おっきな足音も、リモコンが落ちたのも、……みんなみんな、あ、あんただったのね」 母さんは背中を丸めて身体を屈め、おはぎのオハナに自分の鼻をそっと重ねて囁くようにそう言った。 言われたおはぎは ”にゃばば” と焦り、 『へ、へ、へにゃ……! へ、へにゃにゃ……へな……へにゃあん……』 とゴニョゴニョ。 早い話が ”ゴメンナサイ” とあやまった。 そこにすかさず父さんが割り込んで、 「あやまるコトはないよ。おはぎは何も悪くない。おはぎは、おはぎは……気づいてほしかったんじゃないの? “おはぎはココにいるよ” って、教えてくれようとしたんでしょう?」 仔猫の気持ちをピタリと当てる。 当ててもらったサビ猫は、嬉しそうにコクコク頷き、その勢いで父さんに頭突きした(猫の頭突きは ”大好き!” の意味) 、……が、触れる事が出来ないもんで、スカッと空振りヨロッとこけた。 「「おはぎーーーー!!」」 こけた仔猫に絶叫のトウとカア、涙も引っ込み大慌て。 すぐさま起こしてあげようと、2人揃って両手(・・)をおはぎに差し出した、……直後、 「「おはぎが消えたーーーー!!」」 って、そりゃそうだ。 三尾の猫又、お姫の尻尾を放したら、おはぎの姿が視えなくなるって言ったじゃないの。 あーあー、また泣いちゃった。 エグエグしながらおはぎのコトを探してる。 んも、我が親ながら手がかかるったらないぞ。 「父さん、母さん、落ち着いて。おはぎはちゃんとココにいるから、大福の尻尾に触ればまた視えるから、……って、え、大福?」 手がかかる、そう思ったのは僕だけではないようで、 ボフン! いつかの前とおんなじように、大福は自身の霊体(からだ)変化(へんげ)させ、自転車くらいにスケールアップ。 アップした分尻尾の長さがグンと伸び、シュルルシュルルと父さん達の腰に巻き付け、ハンズフリーにしてくれた(おはぎは変わらず尻尾同士で結んでる)。 結果、 「「大福ちゃんデカ可愛いーーー!! あっ! おはぎいたーーーー!!」」 泣いて笑って笑って泣いて。 おはぎも、トウも、カアも、そしてまた笑うのだ。
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