2367人が本棚に入れています
本棚に追加
「……おはぎ、……おはぎ、」
顔を歪ませ嗚咽を漏らし、父さん達は揃って何度も名前を呼んだ。
呼ぶたび涙が溢れ出し、ボタボタボタボタ、雨のように降り続く。
おはぎは最初、2人の涙に大いに慌てて一生懸命頬を舐め、だけどそれが追いつかないと分かったみたいで、だから、今度は、その雨を浴びようと、その愛を浴びようと、雫の真下に霊体を置いた。
黒と橙、少し白。
斑模様の小さな霊体。
おはぎの頭、おはぎのお耳、おはぎのほっぺにおはぎのオハナ、視上げる金目は飴玉みたいにキラキラで、おはぎのすべてに愛の雫が降りそそぐ。
そして、降るのは涙だけではないようで____
____おはぎ…………
流れる涙を拭いもせずに、母さんが小さな猫の名前を呼んだ。
呼ばれた猫は『へにゃ』とすぐに返事をすると、続く言葉を待っていた。
「おはぎ……おはぎ、……あんただったの……今までの……おっきな音も、おっきな足音も、リモコンが落ちたのも、……みんなみんな、あ、あんただったのね」
母さんは背中を丸めて身体を屈め、おはぎのオハナに自分の鼻をそっと重ねて囁くようにそう言った。
言われたおはぎは ”にゃばば” と焦り、
『へ、へ、へにゃ……! へ、へにゃにゃ……へな……へにゃあん……』
とゴニョゴニョ。
早い話が ”ゴメンナサイ” とあやまった。
そこにすかさず父さんが割り込んで、
「あやまるコトはないよ。おはぎは何も悪くない。おはぎは、おはぎは……気づいてほしかったんじゃないの? “おはぎはココにいるよ” って、教えてくれようとしたんでしょう?」
仔猫の気持ちをピタリと当てる。
当ててもらったサビ猫は、嬉しそうにコクコク頷き、その勢いで父さんに頭突きした(猫の頭突きは ”大好き!” の意味) 、……が、触れる事が出来ないもんで、スカッと空振りヨロッとこけた。
「「おはぎーーーー!!」」
こけた仔猫に絶叫のトウとカア、涙も引っ込み大慌て。
すぐさま起こしてあげようと、2人揃って両手をおはぎに差し出した、……直後、
「「おはぎが消えたーーーー!!」」
って、そりゃそうだ。
三尾の猫又、お姫の尻尾を放したら、おはぎの姿が視えなくなるって言ったじゃないの。
あーあー、また泣いちゃった。
エグエグしながらおはぎのコトを探してる。
んも、我が親ながら手がかかるったらないぞ。
「父さん、母さん、落ち着いて。おはぎはちゃんとココにいるから、大福の尻尾に触ればまた視えるから、……って、え、大福?」
手がかかる、そう思ったのは僕だけではないようで、
ボフン!
いつかの前とおんなじように、大福は自身の霊体を変化させ、自転車くらいにスケールアップ。
アップした分尻尾の長さがグンと伸び、シュルルシュルルと父さん達の腰に巻き付け、ハンズフリーにしてくれた(おはぎは変わらず尻尾同士で結んでる)。
結果、
「「大福ちゃんデカ可愛いーーー!! あっ! おはぎいたーーーー!!」」
泣いて笑って笑って泣いて。
おはぎも、トウも、カアも、そしてまた笑うのだ。
最初のコメントを投稿しよう!