第二十二章 霊媒師 岡村英海

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「……そう言えば大福ちゃんのお迎えはどうなってるの? 元々虹の国にいたんでしょう? なのに、どうして今は英海(ひでみ)と一緒にいるの?」 アウチ……! これはマズイ、いくらなんでも直球すぎる……! 大福は他者の幸せを心から喜べる仔だ、だけど今はタイミングが悪すぎる……! 「母さん!」 僕はキッシュ片手に大きな声をだしてしまった。 途端、静まり返るリビング。 父さんも母さんも、なにがあったか分からずにポカンとしている。 「あ……いや、その……シチューのおかわりはいるかなって、」 我ながら下手な言い訳だ。 そんなん絶対思ってないってバレバレだよ、そう気を揉んだのだが。 「おかわり……そうね、いただこうかしら」 え? 母さん食べるの? そんなに食べれるの? と意外な答えにビックリしながら、お皿を受け取る。 鍋からシチューをよそいつつ、チラリとお姫を視てみると……目を閉じていているから表情が分からない。 むぅ……どうしたものかと焦っていると、母さんが訝しげに話し出したのだ。 「英海(ひでみ)……あんた、なんだか変ね。もしかして大福ちゃんのコト、聞いちゃいけない事だった?」 ドストレートだ、もう言い訳のしようがない。 大福は僕が霊視ですべての事情を知ってる事すら知らないのに、あとで話そうと思っていたけど、そうもいかないみたいだ。 仕方がないと、僕はなるべくフラットにお姫の事情を話したの。 すると……母さんは、 「そう……かわいそうに、」 涙声で短く呟いたんだ。 それに対して大福は、背を向けたまま何も答えない……が、耳だけ僅かにピクリと動かす。 「”かわいそう” って……母さん、そんな言い方はないよ。大福は今は僕と一緒にいるんだ。僕は大福を愛してる、とてもとても大事な仔だよ。この仔はかわいそうなんかじゃない。僕が絶対幸せにするんだ……!」 大福の耳がピクピクピクっとさらに動いた、……が、振り向いてはくれなかった。 一方、珍しく語気強めな僕の言い方に、母さんも父さんも目を真ん丸にしていたが、一呼吸置いた後、母さんがこう言ったんだ。 「英海(ひでみ)、あんたもあわてんぼうね。違うわよ、かわいそうなのは大福ちゃんじゃなくて飼い主さんの方よ」 「へ……? 飼い主さん?」 「そうよ。だってこんなに可愛い大福ちゃんだもの。飼い主さんも本当は忘れたくなかったはずだわ。でもね……人は弱いから……年や病気に勝てない事もあるの。大福ちゃんの飼い主さんはご病気だったのよね。だけど、それがなければ絶対に忘れなかったはずよ」 あ……そういう意味の ”かわいそう” か…… 母さんとも尻尾で繋がる大福は、まだ背中を向けているけど、耳をグルンとこちらに向けている。
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