第二十二章 霊媒師 岡村英海

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幻想的な花の雨。 さすがにこの量、どこからか紛れ込むには多すぎて、母さん達も「もしかして ”この世の花” じゃないんじゃないの?」と気がついた。 だから僕が説明したんだ。 これは虹の国の花弁で ”この世の花” ではない、大福と繋がってるから母さん達にも視えるんだって。 それに続けて、この花弁はおはぎの迎えである事を話そうとしたんだけど……すぐには話せなかった。 2人ははしゃいで、 「大福ちゃんのおかげで視えるんだ。ありがとねぇ。おはぎ、キレイだねぇ」 と幸せそうで、言いにくくなってしまったのだ。 あと5分……いや、10分したらちゃんと話そう、そう思って僕は口を閉じた。 はしゃぐ2人と対照的に、おはぎの表情(かお)は固かった。 さっきまでの元気がなくなり、トウとカアの狭い間にササッと素早く入り込む。 「あらあら、どうしたの? こんな所に潜り込んで。もしかして眠くなっちゃった? だったら少し寝なさい。カアもトウも、このままそばにいてあげるから」 優しい顔で目を細め、母さんはおはぎの頭に手を置いた。 さわる事は出来ないけれど、それでも、撫でるように手を滑らせている。 『へ、へにゃ……』 おはぎは短く一声鳴いて、自分を撫でる白い手を必死になって甘噛みしだした。 米粒みたいな小さな歯が、視えたり、隠れたり、……時折カチカチ歯のぶつかる音がする。 最初、それを視た母さんと父さんは、あまりの必死にププッと笑い「可愛いね、可愛いね」と顔を緩ませた。 目を細めた父さんが、母さんの手に自分の手を重ねると、おはぎはすかさず首を伸ばして、その手もあむあむ甘噛んだ。 降り続く花弁はその数をますます増やしていた。 ふわりふわりと宙を舞い、リビングは虹の色に染まってく。 花弁は僕とおはぎと大福の、カラダの上で薄く重なり仄かに光を放ってた。 反対に、父さん達ときなこの身体は素通りするから、通過してそのまま床に落ちていく。 父さんと母さんは横目でそれをチラリと視て、さっきから必死に甘噛むおはぎも視た。 あむあむあむあむ、もうずっと噛みっぱなしだ。 「どうしたの……? おはぎ、なんだかヘンね。……眠くなって甘えているだけ……? それにしたって様子がおかしいわ」 訝し気な母さん、その隣で父さんも頷いている。 ああ……まだ10分経っていないのに。 でも、2人は何かが変だと気づいてる……だとすると話すなら今がそのタイミングだ。 いつかおはぎが帰る事……それは2人も分かっているけど、僕だって分かっているけど、それにしたって迎えはあまりに急だった。 だけど……話さなくちゃいけない。 「2人とも、ちょっといいかな」 …… ………… すべてを話し終えた時、父さん達から笑顔が消えた。
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