第二十二章 霊媒師 岡村英海

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◆ 「英海(ひでみ)……今……なにをしたの……?」 「あり得ない……花弁が……シャボン玉になっちゃった……」 お姫の尻尾に繋がれたまま、父さん達が僕に問う。 その顔はポカンとしてて、キツネにつままれたような、タヌキに化かされたような、猫にフェイクシッコをされたような(猫は用を足しトイレのお砂をザッザッと掻くと下僕が飛んで来る事を知っている為、たまに用を足してないのに砂だけ掻いて下僕を呼びつける事がある)、今のは一体なんだったの? と困惑気味だ。 ま、そうだよね。 霊力(ちから)なんて今まで視た事ないだろうから、そりゃあポカンとしちゃうよね。 本当はさ、霊力(ちから)の事、仕事の事、キチンと説明しておきたい。 僕を視つけてくれた先代のコトも、社長のコトもみんなのコトも話したい。 だけどそれは、また今度。 おはぎと過ごせる最後の夜だもの。 「父さん、母さん。さっきのは今度ちゃんと説明するよ。それより今はおはぎだ。花弁ぜんぶ消したから、虹の国に戻る時間を先延ばしに出来たと思う。でもまたいつ迎えが来るかわからないの。だから今のうちにちゃんとお別れしよう。お別れと言ったって、いつかまた会えるけど、でもそれはうんと先になる。だからいっぱい話そう、笑顔で送り出せるように」 僕が2人にそう言うと、いろいろ疑問はあるんだろうけど、それでも、力強く頷いた。 …… ………… 「お待たせー! おはぎの好きなササミよー! 今夜は特別、ササミの上に猫用カツブシもかけちゃうんだからぁ! おはぎもきなこも大福ちゃんも、どうぞ召し上がれ!」 キッチンから踊るように登場したのは母さんだ。 お皿の上に茹でたササミを山盛りに、そして豪華カツブシもてんこ盛り。 『へっにゃーん!』←おはぎ 『ほっにゃーん!』←きなこ 『うっなーん!』←大福 猫達は目をキラッキラさせながら、深夜のササミをおいしそうに食べだした。 おはぎとお姫はユーレーなので、”召し上がれ!” と言われた後に、ササミの味が口に広がり『うみゃうみゃ』と、お口をモゴモゴさせている。 「「「ちょ……! かーわーいーいー!」」」 親子3人、デレデレしながらハモッた後は、頭にぶちゅーの雨あられ。 ヒトもネコもみんなが笑う、みんなで笑う、そして少し涙ぐむ。 「そうだ! 良いもの視せてあげる!」 父さんは言うなり棚をゴソゴソしだす。 引き出しを開けて、その中から出したものは……いくつかある小箱のうちのひとつだった。 『へにゃぁ?』 おはぎは興味深々だ。 木で出来た小さな箱をクンカクンカと嗅いでいる。 母さんは中身を知っているのだろう。 ニマニマ笑っておはぎの背中を撫ぜているけど、僕はそれを知らないから、おはぎバリに興味深々。 何が入っているのかな?
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