第二十二章 霊媒師 岡村英海

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『へにゃっへにゃっ!』 ”早く視たい!” とおめめ爛々(らんらん)。 おはぎはワクワク、父さんにまとわりついて離れない。 「待って待って! んもー近すぎー、困ったなー、これじゃあおはぎがジャマで開けられないよー(ニヤニヤニヤニヤ)」 むぅ……ウソばっか。 おはぎはユーレー、現世の物質に干渉出来ない。 だからどんなに近くたって、おはぎは箱をすり抜けるからジャマにならない、ヨユーで開けれるはずなんだ。 ワザとだ、コレ絶対ワザとだ。 開けられないフリをしてれば、いつまでたってもおはぎは傍を離れない。 完全なおはぎ狙い、魂胆は見え見えだ。 セコイ手に出た父さんを、母さんは呆れたジト目でジッと見る。 その目線に気がつくと、恥ずかしそうにコホンとひとつ咳払いをしてこう言った。 「ま、まぁ、今のは冗談。やだな、母さんも英海(ひで)もそんな目で見ないでよ。今開けるから、チョット待ってて」 言いながら、座った背中をうんと丸めて、手に持つ箱をおはぎの目線に合わせて下げた。 『へにゃにゃにゃ!』←訳:きっとササミにゃ! 弾む声でおはぎは予想を立てたけど、残念、ササミは棚の中には入れないよ。 冷蔵庫に保管しないと悪くなっちゃうからね。 なんでもかんでもすぐにササミに結びつけちゃう、食いしん坊なサビ猫は、「じゃじゃーん!」の掛け声、父さんが開けた箱に顔を突っ込み覗き込む…………と、 『…………へにゃ……? ……へ、へにゃ……!』 仔猫はそのまま石化した。 え、やだ、どうした!  木の箱は、”頭隠して尻隠さず”、そんな恰好のおはぎがジャマで、ココからだと中身が視えない。 一体なにが入ってるのよ、気ーにーなーるー! いつまでたっても箱から出ない、そんなおはぎに笑っちゃってる母さんは、丸いオシリに手を添えながらこう聞いた。 「おはぎは覚えてる? この中に入ってるの、ぜーんぶあんたのだよ」 おはぎのモノ……? それって…………あ、……ああ……そういう事か……この中に入っているのは父さんと母さんと、そして僕にとっても大事な大事な宝物だったんだ。 聞かれたおはぎは、箱から頭をソロソロ出すとコクリと小さく頷いた。 埋蔵金でも視つけたみたいな顔をして、お口をきゅっと横に結んで、ソワソワしながら箱の中身を視つめてる。 「おはぎの毛皮は黒っぽいから明るい色が似あうのよ」 目を細めて幸せそうに。 母さんが箱に手を入れ取り出したのは、黄色地に赤いハートがたくさん描かれた猫用首輪。 内側には油性のペンで、 ”岡村おはぎ、神奈川県K市××町2-2、090-××××ー××××(岡村大海)” と書いてある。 これ…… 生前のおはぎがずっとつけていた首輪だ。
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