第二十二章 霊媒師 岡村英海

147/159
前へ
/2550ページ
次へ
『…………へにゃ……へにゃ……へにゃぁぁぁん……!』 小さな猫は堰を切って泣き出した。 ペタリとその場に座り込んで、流れる涙がほっぺの毛皮を濡らしても、顔も洗わずほったらかしで泣き出したのだ。 それを視たトウとカアは大慌て。 ”どうしたの?” ”悲しいの?” ”おなかが痛いの?” と、必死になっておはぎの顔を覗き込む。 ああもう、チガウよ。 ぜんぜんチガウ、逆なんだ。 おはぎはちっとも悲しくないし、おなかだって痛くない。 2人はおはぎが大好きだから、こんな風に泣いてしまうと心配でたまらない……うん、その気持ちはよく分かるけど大丈夫。 あのね、おはぎは嬉しいんだよ。 大好きなトウとカアが自分の事を忘れてなくて、今でも変わらず愛してくれる。 確かにさ、この3日間ずっと一緒で、おはぎも充分分かったはずだ。 でもこうやって、改めて言葉で聞けたのが嬉しくて、ホッとして……そう、この涙は幸せの涙なの。 僕はおはぎの過去を細かく視たから、すぐに答えが分かったけれど、視てない2人はテンパり中だ。 どうしよう、教えた方が良いかなぁと思ったけど……やめた。 すぐに分かるだろう、なんたって僕以上の猫廃人だ。 おはぎもきっと、僕が言うよりトウとカアに気づいてほしいはずだもの。 『へ、へにゃあ……(グズグズ)……へにゃあ(グズグズ)』←訳:ふぇぇぇ……(グズグズ)……ふぇぇぇ……(グズグズ) 涙と一緒にオハナも垂らして仔猫は2人を視上げてる。 飴玉みたいな綺麗な金目にトウとカアが映り込む。 泣き虫おはぎは何を聞いても ”グズグズへにゃへにゃ”。 心配もピークに達した母さんは、膝で歩いて前に出ると広げた両手をクロスに折り曲げ、その真ん中に小さな猫を抱き込んだ。 「……おはぎ……おはぎ……泣かないで……どうした……? ポンポン痛い……? あんたは昔からおなかが弱かったもんねぇ。ほら、こうしてたら治るよ。抱っこして……あったかくして……治るまでカアがずっとこうしてるからね」 ふれる事は出来ないけれど、それでも、母さんはおはぎのおなかを温めようと、曲げた両手を狭くして、一層優しく抱きしめた。 その後ろから父さんも、母さんの背中ごと愛しい仔猫を抱え込む。 『……へにゃ……』 2人の身体の隙間から、おはぎの声が小さく聞こえた。 少し掠れてる……いっぱい泣いたからねぇ、それでかなぁ。 『………………へにゃあ……』 聞こえるか聞こえないか。 そんな声が間を置いて何度が聞こえ、そのたび2人は囁くように、”なぁに” と応える。 そうやって、2人とイチニャン団子になってくっついてたら、いつしかおはぎは泣き止んだ。 代わり、幸せそうに喉を鳴らすゴロゴロ音が……明け方近いリビングに響いたのだ。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加