第二十二章 霊媒師 岡村英海

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庭に面した掃き出し窓の向こう側。 空は薄い紺色で、朝がそこまで迫ってきてる。 母さん達は団子に固まり囁くような小さな声で、愛しい我が仔と言葉を、気持ちを、交わし合っていた。 そんな2人とイチニャンを、繋ぎ続けてくれるのは大福だ。 自転車サイズの猫又は、自慢の三尾でヒトとネコを有線接続(有シッポ接続?)。 猫又の妖力が、家族の再会を叶えてくれたのだ。 大福……ありがとね、本当にありがとね。 オウチに帰ったらいっぱいブラッシングしてあげる、”ササミ” でも ”ちゅるー” でも、なんでも好きな物を食べさせてあげるからね。 大事なお姫の背中を撫ぜて、可愛い頭に感謝のぶちゅーをしようとした時。 香箱座りで目を閉じていた大福が、大きなお耳をピクピク動かし、片目を薄く開けたのだ。 「大福……どうしたの?」 小さな声でそう聞くと、お姫は黙って目線を上げた。 上? そう思って僕も習って上を視る、…………と、そこには____ ____ああ、 とうとう……来てしまった、 天井から。 はらりはらりと、桜の花によく似た形の花弁が。 赤に橙、黃色に緑、それから……青と藍と紫と。 七つの色の花弁が、はらりはらりと小雨のように降ってきた。 虹の国のお迎えが、おはぎを連れにやって来たんだ。 団子になって顔を伏せてる父さん達も、床に散らばる花弁に気がついた。 数秒、彼らは身体を固くして、身じろぎもせずに黙っていたけど…… 「おはぎ……、お迎えがきたみたいだわ」 母さんは顔を上げると明るい声でそう言った、……言った、……ああ……言ったけどさ、なんだよ……アナタ、ボロ泣きじゃないか。 「もう、めぐちゃんは泣き虫だなぁ。おはぎのコト言えないじゃない。こんなに泣いて……ま、またいつか会えるのに、んも、ダ……ダメだなぁ、こ、これじゃあ、お、おはぎが心配して、……か、帰れないよ、……ちゃんと、わ、笑って、”またね” って、……い、言わなくちゃ」 しゃくりあげる母さんを父さんがたしなめる、……が、それは秒で言い返された。 「ひ、ひろくんだって泣いてるじゃない……わ、分かってる、今日はこれでお別れだけど、またいつか会えるんだよね、……あ、頭では分かってるんだけど……この3日間……すごく幸せだったの……おはぎに会えて……きなこもいて……大福ちゃんもウチの子になってくれて……滅多に帰ってこない英海(ひでみ)までいるんだもの……」 「そうだよね、普段食の細いめぐちゃんが英海(ひで)のシチューをおかわりしたくらいだもの。嬉しいんだなぁって分かったよ、英海(ひで)のゴハンをみんなで食べて、みんなで遊んで……楽しかったよね、」 「うん……楽しくて幸せだった……3日間なんてあっという間で……さ、淋しくなっちゃったんだ……でも……でもそうだよね、これでしばらく会えないんだもの、わ、笑って……”またね” って言わなくちゃ」 ああ……もう、ちっとも涙が止まらない。 夫婦そろってボロ泣きで、それなのに ”笑おう” と言い合ってるんだ。
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