第二十二章 霊媒師 岡村英海

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父さんも母さんも、本当は帰したくないのだろうな。 分かるよ、だって僕も同じだもの。 だけど2人が言った通り、これで最後じゃないんだ。 いつかまた必ず会える。 その時はおはぎだけじゃなくってさ、サンも、シャチも、トラ3兄弟も、しらたまとくろたまも、みんなに会えるし、家族で一緒に暮らせるの。 だからさ、それまで少し淋しいけどさ、頑張ってさ、ウチの可愛い末っ仔を笑顔で送りださなくちゃ。 降る花弁はその数をますます増やし、どこからともなく吹く風が、花の欠片を蝶のように舞い上げる。 螺旋の軌道はゆるやかだけど、徐々におはぎに集まり出して、”カエロウ、カエロウ” と声なき声が言っていた。 『……へにゃあ、』 おはぎも泣いていた。 大きな目からポロポロポロポロ、水晶みたいな涙を落とす……が、それでも、表情は明るかった。 現世に来るまで抱えてた、不安や迷いが消えている。 虹と現世で離れても、”トウとカアを信じて待つにゃ” と、澄んだその目は雷神号のようだった。 母さんは仔猫のオハナにぶちゅっとしながら、 「おはぎ……おはぎ、虹の国(むこう)に着いたらサン達にも ”大好きよ” って伝えて」 そう伝言を託した。 父さんは三角お耳をコチョコチョしながら、 「みんなで仲良くね。好き嫌いせずいっぱい食べて、よく寝てよく遊ぶんだよ」 と、生きてた頃と変わらない事を言う。 言われたおはぎは『へにゃっ!』とお返事、キリリとお顔を引き締めたのだが、それがまたとてつもなく可愛いの。 いっぱい泣いて、ほっぺはカピカピ。 さっきオハナも垂らしていたからマズルもゴワゴワ(オハナの下の ”ω” こんな風に見えるトコね)。 顔を洗うの忘れてるから、スゴイコトになっている。 でも可愛い、どんなおはぎも結局可愛い。 そりゃそうだ、だって大事なウチの仔だもん。 母さん達もそんなおはぎに吹き出した。 おはぎは意味が分かってなくて、最初はキョロキョロ戸惑ってたけど、トウとカアが笑っているのが嬉しいみたいで、元気にピョンピョン跳ねだした、……ってなんだこりゃ。 この跳ね方、まるでウサギそのものじゃない。 これじゃあ猫なんだかウサギなんだか分からなくなっちゃうよ。 天然か? と思ったら、本ニャンちょっと狙ったみたいで、『へぴょん! へぴょん!』とか言ってるの。 この不意打ちにヒトもネコも耐えきれず、お腹を抱えて笑ってしまった。 特にきなこはツボだったのが、ひっくり返ってお腹を出して笑ってる。 「「「あはははは!」」」←ヒト3人。 『うにゃはははは!』←三尾の猫又。 「ほにゃははは! ほぬあ!」←きなこ。(ツボっちゃって変なテンション) 迫る別れを数瞬忘れ、みんなで ”あはは” と笑い合う。 重なる声は重なる幸せ、……なんだけど、そこに、家族以外の別の声が重なった。 【あははははは!】←だ、誰……!?
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