第二十二章 霊媒師 岡村英海

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シン…… みんなの笑い声が止まった。 謎の声に母さん達も気づいたようで、ソワソワしながらおはぎときなこと大福を、両手を広げて抱き寄せる。 僕はさ、”だ、誰!?” と思いつつも、どこかで聞いた声だと記憶の糸を辿ってて、だけど辿り着く前、再び声が聞こえてきたんだ。 【あはははは! さすがはおはぎさん、ウサギさんの跳ね方を完コピしてますねぇ。これも日々 ”ウサギごっご” で鍛えているからでしょうなぁ】 ”ウサギごっこ” !? えっと、それって ”ヘビごっこ” とか ”ネコごっこ” とか、例のあのアソビと同じやつ?(動物違い)  てコトは虹の国の関係者だろうな。 どうやらビンゴで『へにゃん!』とおはぎが胸を張り、大福は『ああ、あれね』とコクコク頷く。 母さん達ときなこは揃ってポカン顔。 僕はというと不明なピースがピタリとはまり、声の主が誰なのかに気が付いた。 「あ、あの! もしかして虹の国の役人さんですか?」 そこに姿はないけれど、なんとなく上を向いてこう聞いた。 それに対してレスポンスはすこぶる早く、 【そうですそうです。虹の国で勤続……勤続……あれ? 何年でしたっけ、途中300年まで数えてたのに忘れちゃった……ま、いいか。私の名前はリヴァイアサン。長くて呼びにくいから虹の仔達はみんなして ”リー” って呼びます。良かったら岡村家のみなさんも ”リー” と呼んでください 】 と、穏やかに答えてくれた。 そうか……やっぱり役人さんだったのか……リーさんって言ったよな。 リーさんは、今こうして虹の国から話してくれる。 現世とうんと離れているのに、遅延も無しに難なく会話が出来るんだ。 さっきとエライ違いだな。 1度目のお迎えでは、おはぎが必死に話しかけても、ずっと無言を通していたのに……話した感じ、リーさんは良い人そうでイジワルで無視したとは考えにくい。 なにか事情があるのかなと、さり気なく聞いてみたんだ。 すると…… 【そうそう! さっきはすみませんでした。虹の国(こちら)のシステムに不具合が生じまして。それで私の声が届かなかったんです。映像は視えたんですけど……いやはや参りました。本当はねぇ、1度目のお迎えの時が、おはぎさんが現世にいられるタイムリミットだったんですよ】 え、そうだったの? 期限があったんだ……それを聞いて、僕も母さん達も無言で顔を見合わせた。 そんな僕らを気にする事なくリーさんは話を続ける。 【ウチの上席が鼻息荒くってねぇ。『今回は特例だからリミットは守るように!』なぁんて言うもんだから、ぺーぺーの私は言われた通り、ちゃあんとお迎えを出したんです。でもほら、シ ス テ ム が 壊 れ ち ゃ っ た でしょう? 音声は届かないし、な ん で か 知 ら な い け ど 、花弁ぜんぶシャボン玉になっちゃうし……こりゃダメだ、システム直るまでお迎えは無理だ、諦めよう、とまぁ……こういうやむを得ない事情があったんです。あははは。ホント、遅くなってすみませんでした】 リーさんは困ったような口ぶりで、だけどすっごく楽し気にそう言った。 この瞬間、僕らはリーさんのミエミエで優しいウソに感謝した。 僕が花弁をシャボン玉に変えた事、ぜんぶ視てたはずなのにとぼけちゃって……(さっき映像は視えてたって言ってたもの) そうやって、僕らに時間をくれたんだ。 システムが壊れたってのもきっと嘘なのだろう……と思ったその時、岡村家一同気持ちが1つになり、”やだ……! 好きになっちゃう……!” と、目を潤ませたのだ。
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