第二十二章 霊媒師 岡村英海

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◆ 右に左に流れる花弁。 螺旋の軌道は勢いづいて、目を細めなくては視界の確保が難しい。 それぞれ声を発するけれど、風に流され聞き取りにくい。 だから僕らは大きな声を出したんだ。 愛する家族としばしの別れ、変わらない気持ちを伝える為に。 「おはぎ! おはぎ! 気を付けてね! 虹の国(むこう)に着いたらサン達と仲良くね!」 髪を押さえて必死におはぎに話してる母さん。 その隣では父さんも、 「必ず迎えに行くから! その時はみんなで一緒に暮らそう! あの仔達も、きなこも大福ちゃんも!」 手を伸ばしてそう言った。 『へにゃ、へにゃ、へにゃにゃ、へにゃにゃ、へにゃにゃ! へなな!』 ____カア、トウ、ヒデミ、きなこ、小雪、またね! お顔以外は花弁に包まれ、おはぎも必死に声を張る。 花吹雪はさらに加速が加わって、虹の色が滲んで溶けだしおはぎの霊体(からだ)が霞んでく。 大福はギリギリまで家族に姿を視せようと、絡めた三尾を一層しっかり巻き付けた……が、残る時間は僅かのようで、天からの優しい声が【小雪さん! そろそろ尻尾を離してください!】と言っていた。 『うな……!』 可愛いオハナに深くシワを刻んだお姫が、ゆっくりと尻尾をほどき始めた。 カラダのどこでもいい、どこか一部に尻尾がふれていれば、互いの姿は視えるのだ。 だが尻尾が離れれば、父さん達はおはぎの姿を視失う。 シュルル……シュル……シュルル…… 「おはぎ! おはぎ! 元気でね! 愛してるわ!」 「おはぎ! トウも愛してる!」 2人は必死に愛しい気持ちを言葉にのせた。 おはぎはそれを噛みしめて、幸せそうな顔をする。 シュルル……シュル……ルル…… そしてとうとう、お姫の尻尾がおはぎの尻尾と離れる寸前。 おはぎは最後____ 頑張って頑張って、 すっごくすっごく頑張って、 『へにゃ……へにゃ……んん……!  ……ヒロミ! ……メグミ! ダイシュキ……!』★ 密かにずっと練習してた、 2人の名前を人語で呼んで…………虹の国へと帰って行ったのだ。 ★おはぎはエイミーの名前も人語で呼んでいますがそのシーンがココです。 https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=1799&preview=1
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