第二十二章 霊媒師 岡村英海

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考え込んで黙りこくった大福は、ボフン! と霊体(からだ)変化(へんげ)を解いて、自転車サイズがいつものサイズにスケールダウン。 で、 小さな霊体(からだ)でテチテチヨジヨジ、僕の膝に登ってきたの。 珍しいな……大福が人前で甘えるなんて。 膝の上の大福は、僕のお腹に顔を押し付けフゴフゴ匂いを嗅いでいる。 これは……どういう意味だろう? やっぱり……会いに逝くのは嫌だって事なのかな……? 僕はとにかく急かしたりしないように、お姫の背中をゆっくりナデナデしてたんだ。 そしたら、僕らの会話を横で聞いてた父さんが、控え目ながらにこう言った。 「大福ちゃんは……迷ってるのかな? 会いに行くのがコワイとか、会いにいったら英海(ひで)に悪いとか、そういうコトを考えちゃうのかな?」 …………チロリ、 ほんの少し……お姫は後ろを振り向いて、父さんの顔を視た。 「……あのね、まず最初に言っておきたいんだけど、会いたくなければ無理しなくて良いんだよ。大福ちゃんがしたいようにするのが1番だ。どんな選択をしても大福ちゃんはイチニャンじゃない。英海(ひで)もトウもカアもきなこもいる。淋しい思いはさせないさ。ただ……そうだな、ココからはトウの一人言なんだけど……トウもね、もう若くない。あと数年したら赤いちゃんちゃんこだ。今はそこそこ元気だけども、将来は病気をするかもしれないし、それこそ病気で、大事な大事な猫達の事も英海(ひで)の事も母さんの事も忘れてしまうかもしれない。絶対に忘れたくないと思ってても……ね」 …………ムク、 大福は上半身だけ僅かに起こすと父さんをジッと視た。 「そう考えると怖くなる。楽しかった思い出も、愛しい気持ちも、ぜんぶ消えてしまったらトウがトウでなくなっちゃうもの。大福ちゃんの話を聞く前から、そういう不安は……年だし、頭のどこかにあったんだ。もしそうなったらどうしよう、どうしたら良いんだろう……って。まぁ、そうなれば自分では何も出来ないんだけどさ。ははは、」 ”ははは” と笑った父さんを、大福は淋しそうに視つめる……も、 「そうなっちゃったら申し訳ないけど、動けるのは周りのヒトとネコだけだ。願わくば……みんなを忘れたダメな父を見捨てないでほしい。なにも特別なコトはしなくていいの。ただ……傍にいてほしい。もちろん、毎日じゃなくていいし、忙しければ気持ちだけでも寄り添ってくれたら大満足だ。それにもしみんなの事を忘れても、そのみんなが会いに来てくれたら……また好きになる、大好きになる……絶対にね、」 続く言葉を聞き終えた時、大福は再び考え込んだ。 僕のお腹に顔を押し付け、そうかと思うと僕を視上げ、父さんと母さんの顔も視て、きなことも目を合わす。 …… ………… そしてしばらくそうしていたけど、 大福は____ 『うなん』 と一言声を発し、僕の膝から飛び降りたのだ。
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