第二十二章 霊媒師 岡村英海

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◆ 「大福ちゃん、これ持っていきなさい。途中で食べられるようにカリカリをラップで包んだから」 母さんがきなこ用のカリカリをいそいそと持ってきた。 「ちゅるーもいるんじゃないか? ウェットタイプだから水分補給になるし」 父さんも両手いっぱい ”ちゅるー” を抱えてる。 「ほにゃぁ、ほにゃあん」 テクテクテク……ンペッ! きなこは何かを口に咥えてやってきて、お姫の前にポトッと落としたんだけど……って、やだ……! これきなこのお気に入りのオモチャじゃないの! コレ、お姫にかしてあげるの? きなこ……めっちゃ優しい仔! 父さんの話をすべて聞いた大福は、もう一度、飼い主さんに会いに逝くと決めた。 たとえ自分を覚えてなくても、自分は彼女を覚えているし、今だって大好きなのだ。 だから会って顔を視て、今までありがとうと伝えてくるのだと言った。 うん……それが良いよ。 そのほうがスッキリするし、気持ちの整理もつくだろう。 それに大好きな人だからこそ、わだかまりを抱えたまんまじゃ悲しいもの。 大福の目の前。 そこにはカリカリやらちゅるーやらで、こんもり小山が出来ていた。 バラバラじゃあ持ちにくいだろうと、ハンカチを風呂敷代わりにすべてを包むと、母さんがお姫の首に巻き付けた(ちょーーー! 可愛いーーー!)。 巻きつけられた大福は、まんざらでもないようで、『うなん♪』となんだかウキウキだ。 や……でもな、大丈夫かな、現世の食べ物って黄泉の国に持って逝けるのか? やったコトがないから分からないけど……どうなんだろ? でもま、せっかくだ。 どうなるか試してみるのも悪くない。 「大福ちゃん、向こうに着いたらウチに連絡くれる? 本当はカアがついていけたら良いんだけど、それは無理だからせめて連絡をちょうだい。そしたら安心出来るから」 しゃがみ込んだ母さんが、姫のオハナをちょんちょんしながらそう言った。 「連絡はどうやってするの? さっきのリーさんみたいに声で? それとも電話? だとしたらウチの電話番号、紙に書いて渡しておかなくちゃ」 ややややや、父さんナニ言ってんの。 黄泉の国と現世じゃ電話通じませんって。 …… ………… 『うなななな』 丸い背中に弁当背負って、大福は『逝ってくるにゃ』とそう言った。 その顔は穏やかで足取りも軽い。 僕と母さんと父さんときなこ、みんなでお姫を送り出す。 「気を付けて行くのよ。着いたら連絡してね」←母さん 「もし辛かったらすぐに帰っておいで」←父さん 「ほにゃあん、」←きなこ 「大福、絶対絶対帰ってきてね……!」←僕 みんなが笑顔で送る中、僕1人がチョー必死。 自分から “いっておいで” と言ったクセして、帰ってこなかったらどうしようと心配になったのだ。
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